老後や親の介護に備えてお金を増やしたい一方、「必要になったときに相場が下がっていたら困る」と不安になる人もいるでしょう。介護は始まる時期も期間も読みにくく、急な住宅改修、入院、施設入居などでまとまった現金が必要になることがあります。
近く使う介護費用は投資に回さず預貯金で確保し、長期間使う予定がない余裕資金だけを、低コストで広く分散した商品へ長期・積立で運用するのが基本です。投資信託は「手数料が高い商品ほど優秀」ではありません。内容が同じなら、継続的に差し引かれるコストが低いかを確認します。
この記事では社会福祉士の視点から、介護費用と投資資金を混ぜない順番、使う時期ごとの三つの財布、必要額の見積もり、NISA・iDeCoの注意、低コスト投資信託の見方を、2026年7月時点の公的情報に基づいて整理します。
先に結論
- 家計を黒字にし、高金利の借入を先に減らす
- 生活防衛資金と5年以内に使う可能性がある介護費用は預貯金で持つ
- 10年以上使わない余裕資金は、低コスト・長期・積立・分散を検討する
- NISAは利益等を非課税にする制度で、損失や元本割れを防ぐ制度ではない
- iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、近い介護費用を入れない
介護費用を投資に回す前の順番
投資商品を選ぶ前に、家計全体を整えます。金融庁も、資産形成の基本として、収入と支出の把握、収支の黒字化、黒字分の貯蓄、ライフプランニングを挙げています。
- 毎月の手取り収入と固定費・変動費を把握する
- カードのリボ払いや消費者金融など高金利の借入を優先して返す
- 急な失業、病気、修理に備える生活防衛資金を作る
- 数年以内の住宅、教育、介護、車などの支出を現金で分ける
- その後に残る長期の余裕資金で投資を始める
高い利息を払いながら、値下がりする可能性がある商品へ投資するのは家計を不安定にします。また、生活費まで投資に回すと、相場下落時に安値で売却せざるを得ません。投資を続けるためにも、先に現金の土台を作ります。
金融庁の「資産形成の基本」では、家計管理とライフプランニング、元本割れの可能性、長期・積立・分散投資が説明されています。
使う時期で三つの財布に分ける
介護費用と投資資金を同じ口座で管理すると、どこまで値下がりに耐えられるか分からなくなります。そこで、使う時期ごとに分けます。5年・10年という区切りは法律上の基準ではなく、相場下落時に売らないための保守的な目安です。
| 財布 | 使う時期 | 置き場所の考え方 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 生活用 | いつでも | 普通預金など、すぐ使える現金 | 生活費、医療、急な移動、立て替え |
| 近い介護用 | おおむね5年以内 | 価格変動を避けた預貯金等 | 住宅改修、福祉用具、短期入所、施設初期費用 |
| 長期資産形成用 | おおむね10年以上先 | 低コストで広く分散した投資信託等を検討 | 遠い将来の老後・介護費の補完 |
5~10年の間は、本人の年齢、介護の兆候、収入、年金、他の預貯金、価格変動への耐性で判断が変わる領域です。全額を投資するのではなく、必要時期が近づくほど現金の割合を増やします。
介護費用は「平均額」ではなく家族の条件で見積もる
介護費用は、要介護度、在宅か施設か、本人の所得、住居、医療、家族が担える範囲で大きく変わります。平均額を一つ覚えるより、次の四つに分けて見積もります。
1.毎月の介護保険サービス自己負担
介護保険サービスの利用者負担は原則1割で、一定以上所得者は2割または3割です。居宅サービスには要介護度別の支給限度額があり、限度額を超えた分は原則として全額自己負担になります。
2.介護保険の対象外になる費用
- 施設の居住費・食費・日常生活費
- 通所サービスの食費、おむつ、活動費など
- 支給限度額を超えて使うサービス
- 配食、見守り、家事代行などの自費サービス
- 家族の交通費、宿泊費、仕事を休んだ影響
3.一時的に必要になる費用
- 手すりや段差解消などの住宅改修
- 福祉用具の購入・レンタル
- 入院・退院時の移動や生活用品
- 施設入居時の前払金、敷金、家具、引っ越し
- 空きがない場合の一時的な自費サービス
4.負担を軽くする制度
所得等に応じて、高額介護サービス費、施設の食費・居住費を軽減する特定入所者介護サービス費、高額医療・高額介護合算療養費などを利用できる場合があります。対象外の費用もあるため、市区町村やケアマネジャーへ確認します。
介護サービスの負担と軽減措置は、介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」で確認できます。
わが家の介護予備費を計算する
必要額を断定するのではなく、次の式で仮置きし、年1回更新します。
介護予備費 = 毎月の不足見込み × 確保したい月数 + 一時費用 + 家族の移動・休業費
例えば、本人の年金・収入から介護と生活の支出を引き、毎月2万円不足すると見込むなら、その不足分を何か月分現金で確保するか考えます。施設入居を検討しているなら、候補施設の見積書を取り、前払金の有無、月額、別途費用を確認します。
介護費用は原則として本人の年金や資産から支払い、家族が立て替える場合は記録を残します。子世代が老後資金をすべて差し出したり、借金をしてまで負担したりする前に、軽減制度や住まいの選択を見直します。
家族の予備費づくりは、親の介護に備える予備費の考え方も参考にしてください。
長期資金を運用するなら低コスト・長期・積立・分散
生活防衛資金と近い介護費を分けても、10年以上使う予定がない余裕資金がある場合は、投資を選択肢にできます。ただし、元本保証はなく、必要時に値下がりしている可能性があります。
広く分散する
一つの会社、一つの国、一つの資産へ集中すると、その対象の不調が家計全体に響きます。多くの国・企業へ分散する投資信託なら、個別銘柄を選び続ける負担を減らせます。ただし、分散しても市場全体の下落は避けられません。
積み立てを自動化する
毎月同じ金額を積み立てると、高いときだけまとめて買う行動を避けやすくなります。積立額は、介護費や生活費を取り崩さなくて済む範囲にします。相場が上がった月だけ増やし、下がった月に止めると、感情的な売買になりやすくなります。
手数料を比較する
投資信託では、購入時手数料、保有中に差し引かれる信託報酬、その他費用、売却時の費用などを確認します。特に信託報酬は保有中継続してかかるため、同じ指数や似た運用内容の商品なら、低い方が手元に残りやすくなります。
- 購入時手数料が0円か
- 信託報酬は年率何%か
- 実質的に二重の費用がかかる仕組みではないか
- 毎月分配型など、長期資産形成の目的と合わない仕組みではないか
- 目論見書と運用報告書で費用と投資先を理解できるか
銀行や窓口で勧められたから、人気ランキング上位だからという理由だけで決めません。「高い手数料を払えば安全」「担当者がいるから元本割れしない」ということはありません。内容を理解できず、総コストを説明できない商品は見送る判断も大切です。
NISAを使うときの注意
NISAは、口座内の対象商品から得た売却益や配当・分配金を一定の範囲で非課税にする制度です。つみたて投資枠は、長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託が対象です。
- NISAを使っても元本保証にはならない
- 非課税枠を埋めるために生活費や介護費を投資しない
- 成長投資枠で個別株や高コスト商品へ集中しない
- 売却はできるが、価格が下落していれば損失が出る
- 制度より先に、商品内容と資金の使用時期を確認する
制度の最新情報は、金融庁NISA特設ウェブサイトで確認してください。
iDeCoへ介護予備費を入れない
iDeCoは税制優遇のある老後資産形成制度ですが、加入後は原則として60歳以降の受給年齢まで資産を引き出せません。親の介護が数年以内に始まる可能性がある、住宅改修や施設費を準備したいといった場合、そのための現金をiDeCoへ入れると必要時に使えません。
また、60歳になれば必ずすぐ受け取れるとは限らず、通算加入者等期間により受給開始年齢が変わる場合があります。詳細はiDeCo公式サイト「iDeCoの特徴」で確認します。
介護の兆候が出たら投資計画を見直す
次の変化があれば、積立額、現金、支出見込みを見直します。
- 転倒、入院、認知症の診断などで介護開始が近づいた
- 親の預貯金や年金額、負債が分かった
- 家族が遠距離で交通費や休業が増えた
- 在宅介護から施設入居へ方針が変わった
- 自分や配偶者の収入が減った
必要時期が近づいた資金は、相場の予想で一度に売るのではなく、必要額と時期を決めて段階的に現金化する方法があります。含み益があるかどうかだけでなく、介護費を安全に支払えるかで判断します。
やってはいけない介護資金の運用
- 施設の入居金を数か月後に払う予定なのに株式へ投資する
- 介護費の不足を短期売買、FX、暗号資産で取り戻そうとする
- 一つの個別株やテーマ型投資信託へ集中する
- 高い販売手数料や信託報酬を確認せず契約する
- 元本保証のように説明する勧誘を信じる
- 親の理解や同意なく、親の預貯金を投資へ回す
- 損失を家族に隠し、さらに借り入れて買い増す
投資と投機の違いは、投資と投機を見分ける判断基準で詳しく整理しています。
年1回の見直しシート
| 確認項目 | 見る数字・状態 |
|---|---|
| 家計 | 年間収支、固定費、借入金利 |
| 生活防衛資金 | 生活費の何か月分を現金で持つか |
| 親の資金 | 年金、預貯金、保険、負債、毎月支出 |
| 介護予備費 | 毎月不足額、一時費用、交通・休業費 |
| 投資 | 商品、資産配分、信託報酬、積立額 |
| 使う時期 | 5年以内に必要な資金が投資に残っていないか |
| 制度 | 負担割合、軽減制度、NISA・iDeCoの最新条件 |
相場が上がったか下がったかだけでなく、家族の介護状況と資金の使用時期を一緒に見直します。目的が変われば、積立額や現金比率を変えるのは失敗ではありません。
ケース別の考え方
親が元気で介護はまだ遠そう
親の年金・資産・住まいを確認し、自分の生活防衛資金を作ります。余裕資金があり、10年以上使わない前提なら、低コストで広く分散した積立投資を検討します。
物忘れや転倒が増え、介護が近い
投資額を増やすより、地域包括支援センターへの相談、受診、住宅、サービス費の見積もりを優先します。数年以内の支出見込みは預貯金へ分けます。
すでに介護が始まり毎月赤字
投資で赤字を埋めようとせず、本人の収入・資産、介護サービス、軽減制度、家族の負担、住まいを見直します。投資の新規積立を一時的に減らす・止めることも合理的です。
退職直前で老後資金を運用している
退職後数年の生活費と近い介護費を現金で確保し、残りの長期資金との比率を見直します。退職金を受け取った直後に、全額を一つの商品へ投資しません。
老後資金全体の整理は、老後資金の準備手順も参考にしてください。
よくある質問
介護費用はすべて預金にすべきですか
近く使う可能性がある金額は預貯金が基本です。一方、生活防衛資金と近い介護費を分けた後に、10年以上使わない余裕資金があるなら投資を検討できます。全額を現金か投資かの二択にしません。
NISAなら損をしませんか
損をする可能性があります。NISAは税制上の制度であり、購入した株式や投資信託の価格変動はなくなりません。
窓口で勧められた投資信託なら安心ですか
販売場所だけで安全性は決まりません。投資先、値動き、購入時手数料、信託報酬、その他費用、解約条件を確認します。同じ目的の商品と比較し、理解できなければ契約を急ぎません。
相場が下がったら介護費のために売るべきですか
必要な支払いがあり、現金が足りなければ売却が必要になる場合があります。だからこそ、近く使う介護費を先に現金で分けます。相場の予想より、支払時期と必要額を基準にします。
まとめ
- 投資より先に、家計黒字化・高金利負債・生活防衛資金を整える
- 5年以内に使う可能性がある介護費は預貯金で分ける
- 長期の余裕資金だけ、低コスト・長期・積立・分散を検討する
- NISAは非課税制度であり、元本保証ではない
- iDeCoは原則60歳まで引き出せない
- 介護の兆候が出たら、相場より先に必要額と使用時期を見直す
介護資金の目的は、投資成績を競うことではなく、必要なときに本人と家族の生活を守ることです。現金と投資の役割を分ければ、目先の支払いに備えながら、遠い将来の資産形成も続けやすくなります。
この記事は一般的な制度・資産形成の情報であり、特定の金融商品の推奨ではありません。投資には元本割れの可能性があります。家計、年齢、使用時期、制度、税務等を確認し、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。


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