結論|親の介護費は「本人・家族・将来」の3つに分けて考える
親の介護が始まったとき、最初に決めたいのは「誰がいくら出すか」ではありません。原則として、親本人の年金や預貯金から介護費を払い、家族の生活費や将来資金と混ぜないことです。
そのうえで、公的制度を確認し、毎月の不足額が残る場合だけ、家族が無理なく続けられる支援額を話し合います。数年以内に使う可能性がある介護費を投資で増やそうとせず、すぐ使える預貯金で確保することも大切です。
社会福祉士として介護相談に関わるなかでは、サービス費そのものだけでなく、家族の交通費、立替え、仕事を休んだことによる収入減が積み重なり、家計が苦しくなるケースを見ます。この記事では、介護を続けながら本人と家族の生活を守るための整理手順を解説します。
この記事でわかること
- 親の介護費を誰のお金から払うか
- 介護費の月額を漏れなく把握する方法
- 高額介護サービス費などの負担軽減制度
- 兄弟姉妹との分担で決めておくこと
- 介護離職を避けるために使える制度
- 介護費と投資資金を分ける基準
最初の48時間で確認する5項目
- 本人の意思を確認する:どこで暮らしたいか、誰にお金の管理を手伝ってほしいかを聞く
- 介護保険の状況を確認する:要介護認定、ケアマネジャー、利用中のサービスを確認する
- 本人の収入と支出を把握する:年金、家賃、保険料、医療費、借入れなどを一覧にする
- 家族の立替えを記録する:レシートと振込記録を残し、現金だけで精算しない
- 相談先を決める:地域包括支援センター、担当ケアマネジャー、市区町村の介護保険窓口へ相談する
急いで施設契約や高額商品の購入を決める前に、この5項目を確認します。退院期限が迫っている場合も、病院の医療ソーシャルワーカーと地域包括支援センターをつないでもらうと、家族だけで探すより整理しやすくなります。
介護のお金は3つの財布に分ける
1. 本人の生活・介護の財布
本人の年金、預貯金、保険給付などは、本人の生活、医療、介護、住まいのために使います。まずはこの範囲で継続できる介護計画を作るのが基本です。
- 公的年金や企業年金
- 預貯金、個人向け国債など換金しやすい資産
- 民間の医療保険・介護保険の給付
- 家賃収入など継続的な収入
2. 家族自身の生活の財布
家族の住宅費、教育費、生活防衛資金、老後資金は、親の介護費と分けます。「家族だから全額出す」と決めると、支援する側の生活が破綻し、介護そのものも続けられなくなるおそれがあります。
3. 長期の資産形成の財布
NISAなどで長期運用するお金は、近い時期に使う介護費ではありません。介護費の見通しと家族の生活防衛資金を確保した後、長期間使わない余裕資金だけを投資に回します。
注意|家族でも本人の口座を自由に使えるわけではない
介護費を本人のお金から払うことと、家族が本人の口座を無断で操作することは別です。本人に判断する力がある間は、支払い方法や管理を手伝う人について本人の同意を得ます。
- 本人の同意と支出目的を記録する
- 介護費専用の記録表を作る
- レシート、請求書、振込明細を保管する
- 家族への贈与や貸付けと介護費の支払いを混同しない
- 暗証番号の共有だけで長期管理を続けない
認知症などで本人の判断能力が低下し、契約や財産管理が難しい場合は、地域包括支援センター、市区町村の権利擁護窓口、社会福祉協議会、弁護士・司法書士などへ相談します。成年後見制度や日常生活自立支援事業は、本人の状態と必要な支援によって向き不向きがあります。家族だけで決めず、制度の説明を受けてください。
介護費は「請求書に載るお金」だけではない
家計を圧迫しやすいのは、介護保険の自己負担以外の支出です。次の3群に分けて記録すると、削れる費用と削れない費用が見えてきます。
介護保険サービスの自己負担
- 訪問介護、通所介護、短期入所などの利用者負担
- 福祉用具貸与の利用者負担
- 施設や特定施設での介護サービス費
介護保険サービスの利用者負担は原則1割で、一定以上の所得がある人は2割または3割です。利用するサービス、要介護度、地域区分、加算によって実額が変わります。
介護保険の対象外になりやすい費用
- 食費、居住費、管理費
- おむつや日用品(サービス種別によって扱いが異なる)
- 理美容、嗜好品、娯楽費
- 通院交通費、家族の面会交通費
- 介護保険の支給限度額を超えたサービス
- 民間の見守り、家事代行などの自費サービス
家族側に生じる見えにくい費用
- 仕事を休む、残業を減らすことによる収入減
- 遠距離介護の交通費・宿泊費
- 家族が代わりに購入した食料・日用品
- 介護のために増えた通信費や車両費
- きょうだい間の立替え精算
1か月の介護家計表を作る
| 項目 | 確認する金額 | 確認先 |
|---|---|---|
| 本人の月収 | 年金、給与、家賃収入など | 年金通知、通帳 |
| 通常の生活費 | 家賃、光熱費、保険料、食費 | 請求書、通帳 |
| 介護保険自己負担 | サービス利用票別表の見込み | ケアマネジャー |
| 保険外の介護費 | 食費、居住費、日用品、自費サービス | 事業所の料金表 |
| 医療費 | 受診、薬、訪問診療 | 領収書 |
| 家族の関連費 | 交通、宿泊、立替え、収入減 | 家族の記録 |
| 毎月の差額 | 収入-すべての支出 | 家族会議 |
1か月だけで判断せず、少なくとも通常月、医療費が多い月、短期入所を使う月を分けて試算します。施設を検討する場合は、月額表示だけでなく、入居時費用、加算、更新料、退去時精算を含めた1年・5年の総額で比べます。
使える可能性がある公的な負担軽減制度
高額介護サービス費
1か月の介護保険サービスの利用者負担が所得区分ごとの上限を超えた場合、超過分が支給される制度です。ただし、食費・居住費、福祉用具購入費、住宅改修費、支給限度額を超えた全額自己負担分などは、原則として対象外です。
上限額は所得や世帯の状況で異なります。自動的にすべて精算されるとは限らないため、市区町村の介護保険窓口へ申請方法を確認してください。
高額療養費
医療機関や薬局で支払う医療保険の自己負担が、年齢・所得に応じた月ごとの上限を超えた場合に、超過分が支給される制度です。差額ベッド代、入院時の食事代、保険外診療などは対象外です。
高額医療・高額介護合算療養費制度
同じ医療保険の世帯で、毎年8月から翌年7月までの医療保険と介護保険の自己負担を合算し、所得区分などに応じた基準額を超えた場合に支給されます。医療と介護の両方を継続して使う世帯は、加入している医療保険の窓口へ確認してください。
特定入所者介護サービス費
所得や資産などの要件を満たす人が、対象となる介護保険施設や短期入所を利用するとき、食費・居住費の負担を軽減する制度です。すべての有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅が対象になる制度ではありません。市区町村で負担限度額認定の対象になるか確認します。
制度名だけを見て自己判断せず、「この費用は対象か」「申請は必要か」「いつまでさかのぼれるか」を窓口で確認することが申請漏れを防ぎます。
介護離職を避けることも家計対策
介護費を減らそうとして家族が仕事を辞めると、毎月の収入だけでなく、将来の年金や再就職にも影響する可能性があります。退職を決める前に、介護サービスと勤務先の両立支援制度を組み合わせます。
介護休業
対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限に分けて取得できます。介護休業は、93日間ずっと自分だけで介護するためではなく、要介護認定の申請、ケアマネジャー探し、サービス調整、施設見学など、仕事と介護を両立できる体制を整える期間として使うのが現実的です。
介護休暇
通院の付き添い、ケアマネジャーとの打合せ、手続きなどに使える休暇です。対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日まで利用でき、時間単位での取得も可能です。賃金の扱いは勤務先の規定を確認します。
短時間勤務・残業免除・テレワーク
勤務時間の短縮等の措置、所定外労働の制限、時間外労働や深夜業の制限などを利用できる場合があります。2025年4月からは、介護離職防止のための雇用環境整備や、介護に直面した労働者への個別周知・意向確認が事業主の義務になりました。まず勤務先の人事・総務窓口に「介護に直面したので利用できる制度を一式確認したい」と伝えます。
投資は介護費を用意する最初の手段ではない
介護が必要になる時期は、相場の都合を待ってくれません。株式や投資信託は値下がりするため、近い時期に使う介護費を置く場所には向きません。
- 高金利の借入れがあれば返済計画を優先する
- 本人の介護費と家族の生活防衛資金を預貯金で確保する
- 数年以内に使う予定のお金を投資から外す
- 長期間使わない余裕資金だけで資産形成を行う
余裕資金で長期の資産形成をする場合は、長期・積立・分散を基本とし、同じ指数や投資対象なら、購入時手数料がなく信託報酬の低い、広く分散されたインデックス投資信託を優先候補にします。高い手数料、複雑な仕組み、内容を説明できない商品は避けます。
NISAは運用益を非課税にする制度であり、元本を保証する制度ではありません。iDeCoは原則として60歳まで引き出せないため、親の急な介護費や家族の生活防衛資金の置き場所には向きません。
兄弟姉妹との分担は「金額以外」も決める
家族会議では、単純に人数で割るのではなく、収入、子育て、住んでいる場所、本人との関係、できる支援を確認します。お金を多く出せる人と、通院同行や手続きを担える人は同じとは限りません。
- 毎月の費用を誰が集計するか
- 本人の不足額が出たときの家族負担の上限
- 通院、買物、面会、緊急連絡の担当
- 立替えの申告期限と精算方法
- 高額な契約を決める前に相談する範囲
- 3か月ごとの見直し日
話合いの目的は、過去の親子関係を清算することではなく、本人の生活を支えながら誰か一人に負担を集中させないことです。感情的になりやすい場合は、ケアマネジャーや地域包括支援センターに同席や整理を相談してください。
家族会議で使える伝え方
今月の介護関連費は合計○円で、本人の年金と預貯金から○円を支払えます。毎月○円の不足が続く見込みです。私は毎月○円までなら続けられます。金銭以外の分担も含め、3か月分の方法を一緒に決めたいです。
「もっと協力して」ではなく、金額、期間、自分にできる上限を示すと話し合いやすくなります。一度で永久の分担を決めず、まず3か月単位で試し、本人の状態やサービス変更に合わせて見直します。
相談を急いだ方がよいサイン
- 家族が介護費のために借入れを始めた
- 本人の通帳や印鑑を一人の家族だけが管理し、記録がない
- サービスを減らしすぎて、本人や家族の安全が保てない
- 介護のために退職を迫られている、または退職を即決しようとしている
- 兄弟姉妹で立替えや相続をめぐる対立がある
- 本人の判断能力低下により契約や支払いが止まっている
- 高額な施設契約や金融商品の購入を急かされている
一つでも当てはまる場合は、地域包括支援センター、担当ケアマネジャー、市区町村の介護保険窓口へ早めに相談します。借金、財産管理、相続、虐待が関係する場合は、法テラスや自治体の法律相談など専門機関につないでもらってください。
よくある質問
親の介護費は子どもが均等に払うべきですか?
家族の人数だけで均等に決めると、収入、居住地、育児、実際の介護負担の差を反映できません。まず本人の収入・資産と制度を確認し、不足分について各家族が継続できる金銭・実務の分担を話し合います。法的な扶養や財産をめぐる争いがある場合は、個別事情によって判断が変わるため法律専門家へ相談してください。
親の預金があるなら、子が立て替えて後で相続から返してもらえますか?
相続時に当然に精算できるとは限りません。本人の同意、支出目的、立替えの記録、家族間の認識が曖昧だと争いの原因になります。立替えが必要なら、領収書と送金記録を残し、本人の意思を確認できるうちに方法を決めます。金額が大きい場合は税理士や法律専門家へ相談してください。
介護サービスを減らせば節約になりますか?
短期的な支払いは減っても、家族の欠勤や離職、本人の状態悪化、緊急入院につながれば、全体の負担が増えることがあります。ケアマネジャーに「本人の安全」「家族の就労」「月額上限」の3条件を伝え、サービスの組み合わせを見直してください。
親の介護費をNISAで運用してもよいですか?
近い時期に使う可能性がある介護費は、値下がり時に売却せざるを得ないため、原則として預貯金など元本変動の小さい形で確保します。投資は、本人と家族の必要資金を分けた後の、長期間使わない余裕資金で検討します。
今日から使えるチェックリスト
- 本人の希望とお金の管理方法を確認した
- 本人の月収、固定費、預貯金を一覧にした
- 介護保険内・保険外・家族側の費用を分けた
- 高額介護サービス費などの対象を確認した
- 勤務先へ介護休業・介護休暇などを確認した
- 家族の支援額に無理のない上限を設けた
- 立替えの証拠と精算ルールを決めた
- 近い介護費を投資資金から分けた
- 3か月後の見直し日を決めた
まとめ|介護費より先に家族の生活を壊さない仕組みを作る
- 介護費はまず本人の収入・資産から支払う計画を立てる
- 家族が本人のお金を無断で扱わず、同意と記録を残す
- 介護保険外の費用と家族の収入減まで家計表に入れる
- 負担軽減制度と仕事の両立支援制度を先に確認する
- 家族支援は金額と期間に上限を決める
- 近い介護費は預貯金で確保し、投資は長期の余裕資金に限る
介護のお金は、家族の気持ちだけで解決しようとすると続きません。数字にして、制度につなぎ、役割を分けることで、本人の暮らしと支える家族の生活を両方守りやすくなります。
あわせて読みたい
参考にした公式情報
- 厚生労働省「サービスにかかる利用料」
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
- 厚生労働省「高額医療・高額介護合算療養費制度」
- 厚生労働省「介護離職防止に関する法改正のポイント」
- 厚生労働省「介護休暇」
- 厚生労働省「仕事と介護の両立」
- 金融庁「資産形成の基本」
※この記事は2026年7月時点の公表情報をもとにした一般的な解説です。制度の対象、所得区分、申請方法、勤務先の取扱い、財産管理や税務・法律上の判断は個別事情で異なります。市区町村、加入する医療保険、勤務先、地域包括支援センター、必要に応じて法律・税務の専門家へ最新情報をご確認ください。投資判断はご自身の責任で行ってください。


コメント