「介護にはいくら必要ですか」と聞かれても、すべての家庭に当てはまる一つの金額はありません。在宅か施設か、要介護度、所得、住まい、医療費、家族の支援で大きく変わるからです。
結論は、平均額を貯めるのではなく、本人の毎月の総支出から本人の毎月の収入を引き、「不足額」を在宅・施設など複数案で計算することです。この記事では、地域包括支援センターで相談支援に関わる社会福祉士の視点から、手元の資料だけで始められる計算手順を紹介します。
この記事でわかること
- 介護費用を一律の平均額で決められない理由
- 介護保険の自己負担と保険外費用の分け方
- 本人の収入から月々の不足額を計算する7手順
- 在宅・施設・緊急時の3案を比較する方法
- 不足が出たときに相談する順番
介護費用の必要額は「月々の不足額」で考える
最初に使う式は二つだけです。
- 毎月の不足額 = 介護開始後の毎月の総支出 - 本人の毎月の収入
- 準備額の目安 = 初期費用 + 毎月の不足額 × 計画期間 + 予備費
ここでいう計画期間は、介護が続く期間の予測ではありません。まず6か月、1年、3年など複数の資金繰りを確認するための期間です。状態やサービスが変わるたびに計算し直します。
本人の年金などで総支出をまかなえるなら、預貯金を毎月取り崩す必要はありません。不足がある場合は、その不足を何か月補えるかを確認します。「介護には総額○百万円必要」と先に決めるより、家庭ごとの現実が見えます。
まず本人のお金と家族のお金を分ける
介護が始まると、家族が立て替えた費用と本人の支出が混ざりやすくなります。最初から財布を分けて記録しましょう。
- 本人の収入:公的年金、企業年金、給与、家賃収入、給付など
- 本人の資産:普通預金、定期預金、証券、保険の解約返戻金など
- 本人の支出:生活費、介護費、医療費、住居費、税・保険料など
- 家族の負担:交通費、仕事を休んだ影響、立替金、仕送りなど
預貯金は毎月の収入ではなく、不足を補う資産です。家族の仕送りも、無理なく続けられる額か確認しなければなりません。本人の費用を誰か一人が抱え込まないよう、支払日・金額・目的を残します。
計算前に集める資料
- 介護保険負担割合証
- 介護保険被保険者証、要介護認定結果
- 年金振込通知書、給与明細、課税・非課税がわかる書類
- 預貯金通帳、証券口座、保険契約の一覧
- 家賃、住宅ローン、固定資産税、管理費の資料
- 医療費、薬代、通院交通費の直近3か月分
- 現在の介護サービス利用票・別表、領収書
- 施設やサービス事業所の料金表と見積書
- 電気・ガス・水道・通信・保険などの明細
すべて揃わなくても、わかる範囲から始めて構いません。不明な欄を「0円」にせず、「未確認」と残すことが大切です。
介護費用を6つに分ける
1.介護保険サービスの自己負担
介護保険サービスの利用者負担は、原則として費用の1割で、一定以上の所得がある人は2割または3割です。居宅サービスでは、要介護度ごとに1か月の支給限度額があります。限度額の範囲内なら1~3割負担ですが、限度額を超えた分は全額自己負担です。
負担割合だけを見て「1割だから安い」と判断せず、サービス利用票の別表や事業所の見積書で、1か月の自己負担を確認します。
2.介護保険外の費用
- 通所サービスの食費
- ショートステイの食費・滞在費
- 施設の居住費・食費・日常生活費
- おむつ代の扱いが保険給付に含まれない場合の費用
- 理美容、日用品、嗜好品
- 保険外の見守り、家事代行、配食、付き添い
- 送迎範囲外の交通費やキャンセル料
「介護サービス費」だけでは総額になりません。公表システムや重要事項説明書で、介護給付以外の料金と算定根拠を確認します。
3.今までの生活費
- 家賃、住宅ローン、管理費、固定資産税
- 食費、光熱費、通信費
- 税金、社会保険料、民間保険料
- 車の維持費、日用品、ペット費用
介護が始まっても生活費は続きます。施設入所後も、自宅を残す期間は家賃、固定資産税、管理費、光熱費の基本料金などが二重に発生することがあります。
4.医療費と通院費
- 診察、入院、薬、訪問診療、訪問看護の医療保険負担
- 通院のタクシー、駐車場、家族の交通費
- 差額ベッド、文書料、保険外診療など
介護費と医療費は制度が別なので、同じ表の別欄に記録します。高額療養費や高額医療・高額介護合算制度の対象になり得る場合は、加入している医療保険と市区町村へ確認します。
5.一時的にかかる初期費用
- 手すり、段差解消などの住宅改修
- 介護ベッドなど福祉用具の購入・搬入
- 施設入居時の前払金、敷金、引っ越し
- 退院時の衣類、衛生用品、医療機器関連用品
- 不用品処分、住み替え、家の片づけ
介護保険の住宅改修は、支給限度基準額が原則20万円で、所得に応じて7~9割が給付対象になります。対象工事や例外があり、原則として工事前の申請が必要です。先に工事を契約せず、ケアマネジャーと市区町村へ相談してください。
6.家族側に発生する費用
- 実家までの交通費・宿泊費
- 仕事を休む、短時間勤務にすることによる収入の変化
- 立替払い、仕送り
- 家族の食事、健康、相談などを支える費用
家族の費用は、本人の介護費と分けて把握します。家族が生活を崩すほど負担すると、介護を続けにくくなります。サービスを増やすことで家族の収入減や交通費が抑えられるなら、介護サービス費だけの比較では判断できません。
7ステップで不足額を計算する
ステップ1.本人の月収を出す
- 年金手取り:________円
- 給与・事業収入の手取り:________円
- 家賃・配当など継続収入:________円
- その他:________円
- 月収合計:________円
年金は2か月ごとに振り込まれるため、月額へ直して記入します。額面ではなく、税・社会保険料など控除後に実際に使える金額を確認します。
ステップ2.現在の生活費を出す
- 住居費:________円
- 食費・日用品:________円
- 光熱・通信費:________円
- 税・保険料:________円
- 医療・交通・その他:________円
- 現在の生活費合計:________円
ステップ3.介護サービスの月額見積もりを取る
ケアマネジャーに、サービス利用票だけでなく利用者負担の見込みを示してもらいます。食費、宿泊費、おむつ、加算、保険外サービスも別に足します。
- 介護保険の自己負担:________円
- 食費・宿泊費:________円
- 保険外サービス:________円
- 日用品・交通・キャンセル等:________円
- 介護関連合計:________円
ステップ4.介護開始後に減る支出も確認する
通所サービスの食事で自宅の食費が減る、車を手放して維持費が減るなど、介護によって減る支出もあります。単純に介護費を現在の生活費へ全額足すと、二重計上になることがあります。
ステップ5.初期費用を別に出す
- 住宅改修・福祉用具:________円
- 入居・引っ越し:________円
- 退院・生活準備:________円
- 初期費用合計:________円
ステップ6.月々の不足額を出す
介護後の生活費+介護関連費+医療費-本人の月収=月々の不足額
結果がマイナスなら毎月の黒字、プラスならその金額が毎月の不足です。本人の預貯金残高を不足額で割ると、現在の計画を何か月維持できるかの目安になります。ただし、預貯金をすべて使い切る計画にはせず、急な入院や修繕に備える現金を分けます。
ステップ7.3つの案を並べる
一つの案だけでは、状態が変わったときに慌てます。最低でも次の3案を同じ項目で計算します。
- A:現在の自宅で介護:今のサービス内容、家族の支援が続く場合
- B:在宅サービスを増やす:訪問、通い、短期宿泊などを増やす場合
- C:施設・住み替え:施設費と、自宅を残す期間の二重費用を含める
施設費の見方は、有料老人ホームの費用内訳と確認項目で詳しく解説しています。
一律の相場を使わず、料金表で計算する
「在宅なら月○万円」「施設なら月○万円」という数字は、本人の負担割合、要介護度、利用回数、施設種別、部屋、地域、所得を反映しません。計画に使うのは、候補サービス・施設から受け取った最新の料金表と個別見積もりです。
見積書で確認する項目
- 介護保険の基本部分
- すべての加算・減算
- 食費・居住費・宿泊費
- 管理費、光熱費、日用品費
- 医療費、薬代、通院費
- 選択サービス、保険外サービス
- 入居一時金、退去時費用
- キャンセル料、料金改定の条件
「規定料金による」とだけ書かれている項目は、契約前に具体額を確認します。想定する利用日数を入れた1か月分の請求例を作ってもらうと比較しやすくなります。
負担を軽くする制度は対象範囲を確認する
高額介護サービス費
1か月の介護保険サービスの利用者負担が所得区分ごとの上限を超えた場合、申請などにより超過分が支給される制度です。ただし、食費、居住費、日常生活費、福祉用具購入、住宅改修などは同じ扱いではありません。「介護にかかった全費用へ上限がある」とは考えないでください。
施設の食費・居住費の負担軽減
介護保険施設やショートステイを利用する人で、所得・資産など一定の要件を満たす場合は、食費・居住費の負担限度額認定の対象になることがあります。対象施設、所得段階、資産要件があるため、市区町村へ確認し、必要なら認定申請を行います。
自治体独自の助成・減免
おむつ、配食、移送、住宅改修、家族介護者支援など、自治体独自の制度がある場合があります。名称や要件は地域で異なるため、地域包括支援センターや市区町村の高齢者福祉・介護保険担当へ相談します。
近く使う介護費用は投資に回さない
数年以内に使う可能性が高い介護費用や、毎月の不足を補うお金は、値下がりする可能性がある株式・投資信託へまとめて回さず、すぐ使える預貯金で分けるのが基本です。
投資は、生活費、金利の高い借入れの返済、生活防衛資金、近い将来の介護費用を確保した後の余裕資金で検討します。介護費と運用を分ける考え方は、介護費用を投資に回す前の預貯金と運用の分け方をご覧ください。
不足額が大きいときの相談順
- ケアマネジャー:必要な支援を保ちながら、サービスの回数・組み合わせ・加算を確認する
- 地域包括支援センター:家計、介護、家族関係、権利擁護を含めて相談する
- 市区町村:負担軽減、保険料・利用料、独自事業、申請状況を確認する
- 医療機関の相談員:入退院、医療費、在宅療養の選択肢を確認する
- 必要に応じた専門職:債務、契約、税、財産管理などを適切な窓口へつなぐ
単にサービスを減らすと、本人の安全が損なわれたり、家族が仕事を辞めざるを得なくなったりする場合があります。費用だけでなく、本人の生活と家族の継続可能性を含めて調整します。
家族で決めておきたい5つのこと
- 本人は在宅・施設について何を希望しているか
- 本人の収入と資産を誰が、どの方法で確認するか
- 立替払いの記録と精算をどうするか
- 家族が出せるお金・時間の上限はどこか
- 状態や不足額がどこまで変わったら計画を見直すか
家族で話し合う手順と資料のまとめ方は、介護費用を家族で整理する方法にまとめています。この記事は金額の計算、そちらは情報共有と役割分担に重点を置いています。
計画を見直すタイミング
- 要介護度や負担割合が変わった
- 通い、訪問、宿泊、福祉用具が増減した
- 入院・退院、施設入所、住み替えが決まった
- 本人または家族の収入が変わった
- 預貯金の減り方が計画より速い
- 家族の心身や仕事への負担が続いている
少なくとも3か月ごと、またはケアプランを変更するときに、実際の請求額で再計算します。最初の予測が外れることを失敗と考えず、変化に合わせて更新する計画にしましょう。
まとめ:必要額は「不足額×期間」で自分の家庭に合わせる
介護費用は、平均額を覚えるより、本人の収入・支出・資産を分け、候補となる支援の個別見積もりを使って計算する方が実用的です。
- 本人の月収と現在の生活費を確認する
- 介護保険の自己負担と保険外費用を分ける
- 初期費用は月額と別にする
- 在宅・サービス増・施設の3案を作る
- 月々の不足額を6か月・1年・3年で確認する
- 状態やサービスが変わるたびに再計算する
「介護に必要な平均額」ではなく、「わが家で毎月いくら不足するか」が、準備を始める数字です。
本記事は介護費用の整理に関する一般情報です。介護保険の対象、負担割合、利用限度額、軽減制度、料金は本人・地域・事業所・時期により異なります。個別の計画は、市区町村、地域包括支援センター、担当ケアマネジャー、医療機関、各事業所の最新資料を確認して作成してください。


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