介護のお金は、「総額はいくら」と一つの数字で考えるより、介護保険の自己負担、保険外費用、家族側の出費の3つに分けると整理しやすくなります。
介護費用が心配になると、「施設に入れるだろうか」「仕事を辞めるしかないのか」と、まだ起きていない将来まで一度に考えてしまいがちです。しかし、最初にすることは大きな金額を用意することではありません。現在の暮らしと希望を確認し、月ごとの支出を数字にすることです。
私は社会福祉士として介護に関わるなかで、お金が多いか少ないかだけでなく、利用できる制度を知り、家族で優先順位を共有できているかが選択肢を左右すると感じてきました。この記事では、介護費用を家族で整理する手順を、制度と現場の両面から解説します。
この記事でわかること
- 介護にかかるお金の分け方
- 介護保険の1割・2割・3割負担と、保険外費用の違い
- 高額介護サービス費など、負担を軽くする制度
- 在宅介護と施設介護を同じ条件で比べる方法
- 家族で話し合う項目と相談先
介護費用は3つに分けて考える
「介護費用」という言葉には、性質の異なる支出が混ざっています。まず、次の3つに分けてください。
1.介護保険サービスの自己負担
訪問介護、通所介護、短期入所、福祉用具貸与など、介護保険の対象サービスを利用したときの自己負担です。負担割合証に記載された割合に応じ、原則としてサービス費の1割・2割・3割を支払います。
ただし、要介護度ごとに決められた区分支給限度基準額を超えて利用した分は、原則として全額自己負担です。ケアマネジャーから受け取る利用票や別表で、限度額に対してどの程度利用しているか確認しましょう。
2.食費・居住費などの保険外費用
介護保険が使える施設でも、食費、居住費、理美容代、日用品費などは別にかかります。在宅介護でも、おむつ代、配食、交通費、見守り機器、住宅の小さな修繕などが発生することがあります。
「自己負担割合が1割だから、請求総額も1割で済む」とは限りません。見積書や契約書では、介護保険の対象と対象外を分けて確認する必要があります。
3.家族側に生じる費用
見落とされやすいのが、家族の交通費、帰省費、差し入れ、付き添い時の食費、仕事を休んだことによる収入減です。金額だけでなく、移動時間や夜間対応などの負担も記録すると、必要なサービスを判断しやすくなります。
最初に確認する5つの数字
- 本人の毎月の収入:年金、給与、その他の定期収入
- 介護以外の生活費:家賃、食費、光熱費、通信費、医療費
- 介護保険の自己負担:直近3か月の請求額
- 保険外費用:食費、日用品、交通費、追加サービス
- 家族の持ち出し:立替金、帰省費、休業による収入減
1か月だけでは、短期入所や通院などで数字が偏ることがあります。できれば直近3か月分を集め、平均と最大の両方を見てください。
介護保険の自己負担は「割合」と「対象外」を確認する
介護保険サービスの自己負担割合は、本人の所得などにより1割・2割・3割に分かれます。割合は毎年交付される介護保険負担割合証で確認できます。
一方、施設の食費・居住費・日常生活費などは別負担です。また、サービスの種類、要介護度、地域区分、加算の有無によっても請求額は変わります。「要介護2なら全国一律で月○万円」と決めつけず、本人のケアプランと事業所の料金表で確かめましょう。
厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」では、事業所情報を比較でき、サービス費用の概算を試算できる機能もあります。候補が複数ある場合は、基本料金だけでなく、キャンセル料、送迎範囲、食費、加算、保険外サービスまで比べることが大切です。
負担が重いときに確認したい公的制度
高額介護サービス費
1か月に支払った介護保険サービスの自己負担が、所得区分ごとの上限を超えた場合、超過分が支給される制度です。一般的な市町村民税課税世帯の上限は世帯44,400円ですが、高所得世帯は93,000円または140,100円、住民税非課税世帯などはより低い上限が設けられています。
食費、居住費、日常生活費、福祉用具購入費、住宅改修費などは計算対象外です。世帯・個人の区分や申請方法もあるため、自治体の介護保険担当窓口で確認してください。
特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)
一定の所得・資産要件を満たす人が対象施設や短期入所を利用する場合、食費・居住費の負担に上限が設けられる制度です。対象施設や預貯金などの要件があり、原則として申請が必要です。
有料老人ホームなど、すべての高齢者向け住まいが対象になるわけではありません。施設名だけで判断せず、市区町村と施設の双方に確認しましょう。
高額医療・高額介護合算療養費
同じ医療保険の世帯で、1年間の医療保険と介護保険の自己負担を合算し、所得・年齢区分ごとの限度額を超えた場合に支給される制度です。医療と介護の両方を多く利用した年は、加入している医療保険者や市区町村に確認する価値があります。
制度は自動的にすべて反映されるとは限りません。申請の要否、対象期間、必要書類は自治体や加入する保険者に確認してください。
在宅介護と施設介護は「総額と生活」で比べる
在宅は安い、施設は高いと単純には言い切れません。在宅でもサービス回数、住宅環境、家族の距離、夜間の見守りによって負担は変わります。施設も、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などで費用構造が異なります。
比較するときは、次の項目を同じ1か月単位で並べてください。
- 介護保険サービスの自己負担
- 家賃・居住費と食費
- 医療費、薬代、通院交通費
- おむつ、日用品、理美容などの保険外費用
- 家族の交通費と休業による収入減
- 夜間対応、移乗、排泄、服薬管理など家族が担う時間
- 本人が望む生活と、家族が続けられる範囲
金額が少し高くても、本人の安全が保たれ、家族が仕事や睡眠を維持できるなら、その支出には意味があります。反対に、本人が希望しないサービスや使っていない追加契約は見直しの対象です。
月額を出すための記入例
次は考え方を示す架空の例です。実際の金額は、要介護度、負担割合、地域、サービス内容で異なります。
- 介護保険サービス自己負担:18,000円
- 配食・日用品・おむつ:12,000円
- 通院交通費:6,000円
- 家族の交通費:8,000円
- 合計:44,000円
ここで確認したいのは「44,000円が高いか安いか」だけではありません。本人の収入内で継続できるか、家族の立替が常態化していないか、家族の睡眠や仕事が守られているかを一緒に見ます。
社会福祉士として感じる、見落としやすい5つの点
本人のお金と家族のお金を混ぜない
誰が何を払ったか分からなくなると、家族間の不信や負担の偏りにつながります。立替は日付、内容、金額を記録し、領収書を保管しましょう。本人の意思を確認できるうちに、支払い方法や情報共有の範囲も話し合っておくと安心です。
安さだけでサービスを減らさない
転倒や服薬ミス、家族の疲弊が増えれば、結果として生活の維持が難しくなることがあります。減らす前に、何のためのサービスかをケアマネジャーと確認してください。
家族の無償介護を0円と考えない
家族の介護には、時間、移動、睡眠、就労への影響があります。家族が限界になる前に、短期入所、通所、訪問系サービスなどを検討することは、ぜいたくではなく生活を続けるための調整です。
契約前に追加料金を確認する
施設や事業所では、基本料金だけでなく、食費、管理費、通院付き添い、洗濯、理美容、買い物代行、キャンセル料などを確認します。「規定による」とだけ書かれている項目は、具体的な金額と発生条件を質問しましょう。
本人の希望を数字より先に聞く
費用比較は重要ですが、本人が大切にしたい生活を置き去りにすると、選択は長続きしません。「自宅で何を続けたいか」「施設なら何を優先したいか」を聞き、その希望を実現するために数字を使います。
介護に備えるお金の順番
介護が不安だからといって、すぐに高額な保険や値動きの大きい金融商品を契約する必要はありません。まず家計を安定させ、近く使う可能性のあるお金を確保することが先です。
- 毎月の収支と固定費を把握する
- カードローンやリボ払いなど高金利の負債があれば、返済を優先する
- 急な支出に備える生活防衛資金を、普通預金などすぐ使える形で確保する
- 数年以内に使う介護・医療・住宅費も、値動きのある資産と分ける
- 長期間使う予定のない余剰資金がある場合に限り、長期・分散・低コストの資産形成を検討する
介護に使う時期が近いお金を投資に回すと、必要なときに値下がりしている可能性があります。備えは「増やすこと」より、必要なときに使えることを優先してください。
家族会議で決めておきたい7項目
- 本人が希望する暮らし
- 本人の収入、預貯金、保険、主な支払先
- 毎月無理なく使える介護費の目安
- 家族ができる支援と、できない支援
- 立替金の記録と精算方法
- 緊急時の連絡順と意思決定者
- ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談するタイミング
一度で結論を出す必要はありません。要介護度、病状、家族の働き方が変わったときに見直せるよう、メモを残しておきましょう。
お金に不安があるときの相談先
- 担当ケアマネジャー:サービス内容、利用量、代替案、区分支給限度基準額
- 地域包括支援センター:介護の始め方、制度、家族の負担、権利擁護などの総合相談
- 市区町村の介護保険担当窓口:負担割合、高額介護サービス費、負担限度額認定
- 加入する医療保険者:高額医療・高額介護合算療養費
- J-FLECの相談窓口:家計や資産形成を含むお金の整理
地域包括支援センターは、本人が住む地域を担当する窓口に相談します。まだ要介護認定を受けていない段階でも、何から始めるか分からないときに利用できます。
よくある質問
介護費用の平均額を目標に貯めれば大丈夫ですか?
平均額は参考にはなりますが、必要額は介護期間、要介護度、住まい、家族の距離で大きく変わります。まず本人の収支と直近3か月の実費を確認し、半年から1年先までの見通しを作る方が実用的です。
介護保険なら自己負担はすべて1割ですか?
いいえ。本人の所得などにより2割・3割の場合があります。また、食費、居住費、日用品費、区分支給限度基準額を超えた利用分などは別に負担します。
家族が介護費を払う義務がありますか?
個別事情や法的関係によって扱いが異なるため、一律には言えません。本人の資産管理、扶養、契約、成年後見などが関係する場合は、地域包括支援センターや自治体、必要に応じて法律の専門家へ相談してください。
費用を減らしたいとき、何から見直しますか?
まず制度の申請漏れと保険外の追加料金を確認します。そのうえで、本人の安全や家族の就労を損なわない範囲で、サービスの目的と利用回数をケアマネジャーと見直してください。
まとめ|お金は介護の選択肢を守るための道具
- 介護費用は、介護保険の自己負担、保険外費用、家族側の出費に分ける
- 1割・2割・3割負担だけでなく、食費や居住費などの対象外費用も確認する
- 高額介護サービス費など、使える制度を自治体に確認する
- 在宅と施設は、金額、家族の時間、本人の希望を同じ表で比べる
- 近く使う介護資金は現金で確保し、投資は余剰資金に限る
お金は目的ではなく、本人らしい生活と家族の暮らしを守るための道具です。完璧な金額を当てようとせず、今わかる数字を整理し、制度と専門職を使いながら更新していきましょう。
参考にした公式情報
※この記事は2026年7月時点の公表情報をもとにした一般的な解説です。負担額や要件は本人の所得、自治体、サービス内容などで異なり、制度改正の可能性もあります。契約や申請の前に、市区町村、保険者、担当ケアマネジャーへ最新情報をご確認ください。


コメント