介護保険の特定福祉用具購入は、対象9種目を指定販売事業者から購入した場合、同一年度の購入費10万円までを支給対象にできる制度です。自己負担は原則1割・2割・3割ですが、買う前の確認が欠かせません。
ポータブルトイレや入浴用いすなど、直接肌に触れたり、使うことで形が変わったりする福祉用具は、貸与ではなく購入が介護保険の対象になることがあります。2024年4月からは、固定用スロープ、歩行器、歩行補助つえについて、貸与と購入を選べる仕組みも始まりました。
一方で、対象品に見えても、指定を受けていない店舗や通販サイトで先に購入すると給付されないことがあります。私は社会福祉士として、値段だけで決めず、本人の動き、住環境、手入れ、修理、身体状況の変化まで確認することが大切だと考えています。
この記事でわかること
- 介護保険で購入できる特定福祉用具9種目
- 購入費10万円の意味と、1割・2割・3割負担の計算
- 指定販売事業者から購入する理由
- 購入前の相談から給付までの手順
- 貸与と購入の選び方、再購入の条件
特定福祉用具購入とは
正式な介護保険サービス名は「特定福祉用具販売」です。要支援・要介護の認定を受けた人が、排泄や入浴、移動などに使う対象福祉用具を購入したとき、申請により介護保険から「居宅介護福祉用具購入費」または「介護予防福祉用具購入費」が支給されます。
介護保険の福祉用具は、大きく分けると貸与の対象と販売の対象があります。販売対象は、他人が使用したものを再利用することに心理的な抵抗があるものや、使用により形態・品質が変化するものが中心です。
利用には、本人の身体状況や暮らしにその用具が必要であること、対象種目であること、原則として都道府県などの指定を受けた特定福祉用具販売事業者から購入することが必要です。
介護保険で購入できる特定福祉用具9種目
2026年7月時点の対象は、次の9種目です。商品名が似ていても、機能や構造によって対象外になるため、購入前に販売事業者と市区町村へ確認してください。
1.腰掛便座
和式便器の上に置くもの、洋式便器の上に置いて高さを補うもの、電動・スプリング式で立ち上がりを補助するもの、ポータブルトイレなどです。
本人の立ち上がり、移乗、夜間の動線、介助スペースを確認します。ポータブルトイレは、安定性だけでなく、清掃方法、におい対策、処理を誰が担うかも大切です。
2.自動排泄処理装置の交換可能部品
自動排泄処理装置のうち、レシーバー、チューブ、タンクなど、尿や便の経路となり、本人または介護者が交換できる部分が対象です。
専用パッド、洗浄液、専用パンツ、専用シーツなどの消耗品は対象外です。本体が貸与対象となる場合でも、すべての関連品が購入費支給の対象になるわけではありません。
3.排泄予測支援機器
膀胱内の状態を測定し、排尿の機会を通知することで、トイレでの排泄を支援する機器です。医学的な所見など、自治体が確認する書類が必要になることがあります。
機器を付ければ自動的に排泄が自立するわけではありません。本人が通知を理解できるか、通知後にトイレへ移動できるか、介助者が対応できるかまで検討します。
4.入浴補助用具
入浴用いす、浴槽用手すり、浴槽内いす、入浴台、浴室内・浴槽内すのこ、入浴用介助ベルトなど、座位保持、浴槽の出入り、移乗を補助する用具です。
一般的な滑り止めマットを、介護保険の対象と決めつけることはできません。対象となる構造や用途は定められているため、商品ごとに確認してください。
5.簡易浴槽
空気式・折りたたみ式など、容易に移動でき、取水や排水のための工事を伴わないものが対象です。床を傷めるかどうかではなく、移動可能性と工事の有無が判断のポイントです。
6.移動用リフトのつり具の部分
移動用リフトで身体を支えるつり具部分です。本人の体格、姿勢、皮膚の状態、移乗方法に合うものを選びます。リフト本体は、原則として福祉用具貸与の対象です。
7.固定用スロープ
段差解消のために置き、主に敷居などの小さな段差で使用する、工事を伴わないスロープです。取り付け工事が必要な場合は、福祉用具購入ではなく住宅改修として扱われる可能性があります。
8.歩行器
歩行を支える用具のうち、厚生労働大臣が定める要件を満たすものです。身体状況が変わりやすい場合は貸与、長く同じ用具を使う見込みがある場合は購入が候補になります。
9.歩行補助つえ
カナディアン・クラッチ、ロフストランド・クラッチ、プラットホームクラッチ、多点杖など、告示で定められたものです。一般的なすべてのつえが対象ではありません。
対象外になりやすいもの
- 指定販売事業者以外の通販や店舗で購入した商品
- おむつ、パッド、洗浄液などの消耗品
- 一般的な家具、家電、日用品
- 本人の身体状況や生活上の必要性が確認できないもの
- 対象種目の基準を満たさない類似商品
- 区分上は貸与や住宅改修に該当するもの
車いすや特殊寝台などは、介護保険の購入費支給の対象ではなく、条件を満たせば貸与の対象です。自費購入そのものが禁止されている、という意味ではありません。
支給限度基準額は同一年度10万円
特定福祉用具の購入費は、毎年4月1日から翌年3月31日までの同一年度に、10万円までが支給対象です。10万円がそのまま給付されるわけではありません。本人の負担割合に応じ、支給額は購入費の9割・8割・7割です。
10万円分を購入した場合
- 1割負担:本人負担1万円、給付上限9万円
- 2割負担:本人負担2万円、給付上限8万円
- 3割負担:本人負担3万円、給付上限7万円
同じ年度内であれば、対象となる複数種目を複数回に分けて購入し、合計10万円まで利用できます。これは「分割払いができる」という意味ではありません。使わなかった枠を翌年度へ繰り越すこともできません。
12万円の商品を1割負担の人が購入した例
支給対象は10万円までなので、給付額は9万円です。本人負担は、対象内の1万円と上限を超えた2万円を合わせた3万円になります。
購入日の属する年度や負担割合の扱いは、市区町村の案内を確認してください。
原則は全額を先に払う「償還払い」
一般的な流れは、購入時にいったん全額を支払い、その後に市区町村へ申請し、保険給付分の払い戻しを受ける償還払いです。
自治体によっては、登録事業者で本人が自己負担分だけを支払い、給付分を自治体から事業者へ支払う受領委任払いを利用できる場合があります。まとまった立替が難しい場合は、購入前に市区町村と事業者へ確認してください。
購入前から給付までの6ステップ
1.生活上の困りごとを整理する
「商品が欲しい」から始めるのではなく、「浴槽から立ち上がれない」「夜間のトイレ移動で転びそう」など、困っている動作を具体的にします。
2.ケアマネジャーなどへ相談する
担当ケアマネジャーがいる場合は相談します。いない場合でも利用できないわけではありません。市区町村、地域包括支援センター、指定特定福祉用具販売事業者へ相談できます。
3.福祉用具専門相談員に選定してもらう
本人の身体状況、介助方法、住環境を確認し、対象品の候補と価格、使い方、貸与との違いについて説明を受けます。可能なら実物で高さや安定性を確認してください。
4.指定事業者と申請方法を確認する
その事業者が特定福祉用具販売の指定を受けているか、商品が対象か、償還払いか受領委任払いか、自治体への事前確認が必要かを確認します。指定事業者は、厚生労働省の介護サービス情報公表システムでも検索できます。
5.購入し、領収証などを受け取る
商品名、金額、購入日、販売事業者が分かる領収証を受け取ります。商品カタログや概要書、特定福祉用具販売計画なども保管してください。
6.市区町村へ支給申請する
一般に、申請書、領収証、商品のパンフレットや概要が分かる書類、必要理由が確認できる書類などを提出します。排泄予測支援機器では、医学的所見など追加書類を求められる場合があります。
必要書類や申請時期は自治体で異なることがあるため、必ず本人の保険者である市区町村の案内を確認してください。
通販やホームセンターで先に買わない
商品が安く見えても、Amazonなどの通販やホームセンターが指定特定福祉用具販売事業者でなければ、介護保険の支給対象にならない可能性があります。
また、同じ「シャワーチェア」「歩行器」という商品名でも、告示の基準を満たさない場合があります。注文確定や代金支払いの前に、指定の有無と対象商品であることを確認しましょう。
貸与と購入を選べる3種目
2024年4月から、固定用スロープ、歩行器、歩行補助つえは、利用者の希望や身体状況などに応じて貸与と購入を選択できるようになりました。歩行補助つえでは、単点杖と多点杖などが対象になります。
貸与が向きやすい場合
- 身体状況が変わる可能性が高い
- 短期間の利用を見込んでいる
- 状態に合わせて機種変更したい
- 点検や修理を含む支援を重視したい
購入が向きやすい場合
- 長期間、同じ用具を使う見込みがある
- 本人専用の用具として管理したい
- 貸与料の累計と購入時の負担額を比べ、購入が合理的
厚生労働省が示す平均利用月数は、固定用スロープ13.2か月、歩行器11.0か月、単点杖14.6か月、多点杖14.3か月です。ただし、この数字だけで決めるものではありません。身体状況や故障時の対応、購入後の修理費も含めて選びます。
貸与を選んだ場合、利用開始から6か月以内に少なくとも1回のモニタリングが行われます。購入後の点検や修理費は、原則として事業者との契約によるため、保証期間、修理費、代替品の有無を購入前に確認してください。
同じ種目の再購入・複数個購入
同一年度に同じ種目を再び購入する場合は、原則として支給されません。ただし、次のような事情があり、市区町村が必要と認めた場合は、再支給や複数個の支給が認められることがあります。
- 購入済みの用具が破損した
- 介護の必要度が著しく高くなった
- 身体状況や生活環境から、用途・機能の異なるものが必要になった
- 左右用のロフストランドクラッチや複数の段差用スロープなど、種目の性質上複数個が必要
破損や退院、施設から在宅への移行だけで、自動的に再購入が認められるわけではありません。購入前に市区町村へ個別に確認してください。
施設・入院中・認定申請中の場合
高齢者向け住まいでは一律対象外ではない
介護保険上の「居宅」には、自宅だけでなく、有料老人ホームや軽費老人ホームなどの居室が含まれる場合があります。一方、施設サービスに含まれる用具との重複などにより扱いが異なることがあります。住まいの名称だけで判断せず、施設と保険者へ確認してください。
入院中は退院後の利用を事前相談する
入院中に病室で使うための購入は、通常の在宅利用とは扱いが異なります。退院後の自宅で必要になる場合は、退院支援担当者、ケアマネジャー、販売事業者、市区町村で購入時期を調整します。
要介護認定の申請中は先に確認する
認定結果が出る前に購入すると、結果や購入時期によっては給付対象にならないリスクがあります。急ぐ場合も、市区町村へ事前に相談してください。
社会福祉士の視点で見る選び方
- 困っている動作を一つに絞る:立ち上がり、移乗、排泄、入浴、段差など
- 本人が操作できるか確認する:握力、認知機能、視力、痛みも含める
- 介助者の動きも試す:腰をひねらないか、手が届くか、夜間も対応できるか
- 設置場所を測る:幅、高さ、扉、段差、床の強さ、動線を確認する
- 清掃・保管を決める:誰が、どこで、どの頻度で行うか
- 購入後を確認する:保証、点検、修理、身体状況が変わったときの相談先
福祉用具は置くだけで安全になるものではありません。高さや位置が合わなければ、かえって転倒や介助負担につながることがあります。可能なら、福祉用具専門相談員やリハビリ専門職と実際の動作を確認しましょう。
購入前チェックリスト
- 要支援・要介護認定と負担割合を確認した
- 商品が対象9種目の基準を満たすと確認した
- 販売店が指定特定福祉用具販売事業者だと確認した
- 本人の身体状況と住環境に合うか試した
- 貸与との費用・交換・修理の違いを聞いた
- 今年度の購入費残額を確認した
- 償還払いか受領委任払いか確認した
- 領収証、カタログ、計画書など必要書類を確認した
よくある質問
Amazonやホームセンターで購入しても対象ですか?
原則として、指定特定福祉用具販売事業者からの購入が必要です。通販サイトや店舗が指定を受けているか、商品が対象かを購入前に確認してください。
ケアマネジャーがいなくても利用できますか?
ケアマネジャーがいないことだけで利用できなくなるわけではありません。市区町村、地域包括支援センター、指定販売事業者へ相談し、必要理由や手続きを確認します。
最初から自己負担分だけ支払えますか?
原則は全額を先に払う償還払いです。自治体と登録事業者によっては受領委任払いを使える場合があります。
年度が変われば同じ用具を買えますか?
10万円の支給限度額は年度ごとに改めて設定されますが、同一種目の再購入が自動的に認められるわけではありません。破損、身体状況の変化などの必要性を市区町村が判断します。
購入後の修理は無料ですか?
無料とは限りません。販売後のメンテナンスや修理費は事業者との契約で決まるため、保証期間と費用を購入前に確認してください。
まとめ|買う前の確認が最も大切
- 対象は6品目ではなく9種目
- 支給対象となる購入費は同一年度10万円まで
- 本人負担は原則1割・2割・3割
- 原則として指定特定福祉用具販売事業者から購入する
- 固定用スロープ、歩行器、歩行補助つえは貸与と購入を選べる
- 再購入や施設利用は一律ではなく、市区町村の個別判断がある
本人の生活に合う福祉用具は、排泄や入浴、移動の安全を支え、介助する家族の負担も軽くします。安さや見た目だけで決めず、困っている動作を専門職と確認し、給付条件と購入後の支援まで比べて選びましょう。
参考にした公式情報
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「特定福祉用具販売」
- 厚生労働省「特定福祉用具販売に係る種目」
- 厚生労働省「福祉用具貸与・特定福祉用具販売・住宅改修 Q&A」
- 介護保険法施行規則
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」
※この記事は2026年7月時点の公表情報をもとにした一般的な解説です。対象商品の判断、必要書類、支払方法、再購入の可否などは自治体や本人の状況で異なります。購入前に、市区町村、担当ケアマネジャー、指定特定福祉用具販売事業者へ最新情報をご確認ください。


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