私は地域包括支援センターで10年以上働く社会福祉士として、介護や暮らし、老後のお金に関する相談に関わってきました。投資商品の専門家としてではなく、私自身の投資経験と公的機関の資料をもとに、生活を守りながら資産形成を考えるための基本を整理します。
「投資を始める前に確認したいこと」第5回は、複利です。前回は、投資信託の仕組み・費用・選び方を解説しました。

先に結論です。複利とは、得られた収益を元本に加えて再び運用する考え方です。時間が長いほど効果は大きくなりやすい一方、投資の収益率は一定ではなく、元本割れもあります。複利の計算例を将来の保証として受け取らないことが大切です。
この記事でわかること
- 単利と複利の違い
- 100万円を運用する場合の計算例
- 計算どおりにならない理由と、値下がり時の注意点
- 長期・積立・分散を組み合わせる意味
- 生活資金を守りながら続けるための手順
単利と複利の違い
単利は「最初の元本」にだけ収益がつく
単利は、最初に預けた元本だけを基準に利息を計算します。100万円を年5%の単利で運用できたと仮定すると、毎年の利息は5万円です。30年間なら利息の合計は150万円となり、元本と合わせて250万円です。
複利は「収益を加えた金額」を次の元本にする
複利では、得られた収益を使わずに元本へ加え、次の運用に回します。100万円を年5%で運用できたと仮定すると、1年後は105万円です。2年目は105万円に5%がかかるため、110万2,500円になります。
考え方を式にすると、「元本 ×(1+収益率)の運用年数乗」です。毎年の収益率が同じという前提では、期間が長くなるほど、元本だけでなく過去の収益も次の収益を生む部分が大きくなります。
100万円を運用した場合の計算例
次の表は、100万円を追加投資せず、収益を年1回再投資した場合の単純な試算です。税金・手数料・物価上昇は考慮していません。
| 仮定した年率 | 10年後 | 20年後 | 30年後 |
|---|---|---|---|
| 3% | 約134万円 | 約181万円 | 約243万円 |
| 5% | 約163万円 | 約265万円 | 約432万円 |
この表は仕組みを理解するための計算例であり、実際の投資成果や将来の収益を示すものではありません。投資信託や株式の収益率は毎年変わり、マイナスになる年もあります。税金や費用がかかれば、手元に残る金額は試算より少なくなります。
複利は「一定の利回りを約束する仕組み」ではない
預金の利息と、投資による値上がり・配当・分配金は性質が違います。投資では、前年に増えても翌年に減ることがあります。「年5%で30年」という表示は、一定の収益率を仮定した計算にすぎません。
- 市場価格は上昇と下落を繰り返す
- 商品ごとに価格変動・為替・信用などのリスクが異なる
- 手数料や税金が複利の効果を小さくする
- 分配金や配当を使えば、その分は再投資されない
- 必要な時期に値下がりしている可能性がある
過去の平均収益率が高くても、将来も同じ結果になるとは限りません。商品を選ぶときは、平均値だけでなく、どの程度下落したことがあるか、費用はいくらか、いつ使うお金なのかを合わせて確認します。
値下がりから元に戻るには、より大きな上昇が必要
100万円が20%下落すると80万円です。その後に20%上昇しても、96万円にしか戻りません。80万円から100万円へ戻るには、25%の上昇が必要です。
この例からも、複利だけを見て「長く持てば必ず増える」と考えるのは危険だとわかります。大きな損失を避けるには、特定の国・資産・銘柄へ偏りすぎないこと、生活費まで投資しないことが重要です。
長期・積立・分散は、それぞれ役割が違う
| 方法 | 主な役割 | 注意点 |
|---|---|---|
| 長期 | 収益を再投資する時間を確保し、短期の値動きに振り回されにくくする | 保有期間が長くても元本保証にはならない |
| 積立 | 購入時期を分け、一度に高値で買うリスクを抑える | 利益を保証する方法ではない |
| 分散 | 一つの資産や地域の不調による影響を抑える | 似た値動きの商品を増やすだけでは分散にならない |
金融庁も、資産形成では家計と生活設計を確認したうえで、長期・積立・分散を組み合わせる考え方を紹介しています。複利はこのうち長期運用を支える要素の一つであり、複利だけでリスクがなくなるわけではありません。
複利を活かすための5つの条件
- 収益を再投資する:分配金や配当を使う場合は、その分だけ複利効果が小さくなる
- 費用を確認する:保有中の費用は毎年差し引かれ、長期では差が積み重なる
- 無理のない金額にする:家計が苦しくなって途中で売らなくてもよい金額にする
- 投資先を分散する:一つの値動きに資産全体を左右されにくくする
- 定期的に目的を見直す:使う時期が近づいたら、投資比率や現金化の計画を確認する
社会福祉士として考える「続けられる家計」の作り方
支援の現場で感じるのは、資産額の大きさだけでなく、必要なときにすぐ使えるお金が生活の安心を支えるということです。複利を活かそうとして、急な病気・失業・介護に必要なお金まで投資に回してしまうと、値下がりした時期に売却せざるを得ないことがあります。
まず毎月の収支を黒字にし、生活予備費と数年以内に使う予定のお金を預貯金などで分けます。そのうえで、長く使う予定のない資金から投資額を決める順番が基本です。
始める前の確認リスト
- 毎月の収入と支出を把握している
- 生活予備費を投資資金と分けている
- いつ、何のために使うお金か決めている
- 値下がりしても積立を続けられる金額である
- 投資先・リスク・費用を説明できる
- 使う時期に向けた現金化の計画がある
あわせて読みたい記事
- 投資を始める前に確認したいこと①|家計と生活予備費を整える手順
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- 投資を始める前に確認したいこと③前編|株式と債券の違い・主なリスク
- 投資を始める前に確認したいこと③中編|為替リスクと円高・円安の見方
- 投資を始める前に確認したいこと④|投資信託の仕組み・手数料・選び方
参考にした公的・専門機関の情報
まとめ
複利は、得られた収益を再投資し、時間をかけることで効果が大きくなりやすい仕組みです。ただし、計算例の収益率は仮定であり、投資では値下がりや元本割れがあります。家計と使う時期を先に確認し、長期・積立・分散と費用管理を組み合わせましょう。
本記事は、筆者の経験と公表資料に基づく一般的な情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の推奨や個別の投資助言ではありません。制度・商品情報は変更されることがあります。最終的な判断は、最新の公式情報を確認し、ご自身の状況に応じて行ってください。


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