家族の介護が始まると、「食事も入浴も薬も、すべてきちんとしなければ」と考え、自分を追い込んでしまうことがあります。しかし、毎日100点を取り続ける介護は現実的ではありません。
社会福祉士として相談に関わる中で大切だと感じるのは、家族だけで完璧にこなすことではなく、本人の安全と尊厳、介護する人の生活を守りながら、続けられる仕組みを作ることです。この記事の「70点」は実際に採点する意味ではなく、優先順位をつけて抱え込みを減らすための考え方です。
手を抜かない3項目
- 命に関わる安全:急変、転倒、火の不始末、服薬事故など
- 本人の尊厳と意思:嫌がる理由を聞き、無理に押さえつけない
- 介護者の健康:睡眠、通院、仕事、暴力から身を守ること
それ以外は「家族だけで理想どおりに行う」ことを手放し、介護サービスや周囲の力を借ります。
「70点の介護」は手抜きではなく、続けるための調整
介護では、本人の状態、家族の仕事、使えるサービスが日々変わります。昨日できたことが今日は難しい場合もあり、努力だけで解決できないことがあります。
「本人のためなら家族が頑張るべき」と考え続けると、睡眠不足や離職、家族関係の悪化につながることがあります。介護者が倒れれば、在宅生活そのものが続きません。サービスを使うことや家事の基準を下げることは、介護を放棄することではありません。
最優先にする3つのこと
1.命と事故に関わる安全
- 意識がもうろうとしている、呼吸が苦しい、突然ろれつが回らない
- 転倒して強い痛みがある、頭を打った
- 薬を多く飲んだ可能性がある
- ガスや火の管理が難しくなった
- 本人または家族に暴力や自傷の危険がある
緊急性がある場合は、ケアマネジャーへの通常相談を待たず、119番や警察など適切な緊急窓口へ連絡します。判断に迷う場合は、地域の救急相談窓口などを確認してください。
2.本人の尊厳と意思
入浴や着替えを拒否されたとき、力ずくで行うと本人の恐怖や抵抗が強くなる場合があります。「寒い」「痛い」「知らない人が怖い」など、拒否の背景を確認します。急がない選択ができる場面なら、時間や担当者、方法を変えてみます。
認知症があっても、本人の意思を確認しなくてよいわけではありません。言葉だけでなく表情や行動も含めて希望をくみ取り、必要に応じて専門職と方法を考えます。
3.介護者の健康と生活
介護者の睡眠、持病の治療、仕事、育児も守る必要があります。疲労で怒鳴りそうになる、眠れない日が続く、仕事を休み続けているといった状態は、努力を増やすのではなく支援を増やす合図です。
基準を下げてもよいこと
| 完璧を求めやすい場面 | 続けやすくする工夫 |
|---|---|
| 毎食を手作りする | 配食、冷凍食品、介護食を組み合わせる |
| 家を常にきれいに保つ | 転倒や衛生に関わる場所を優先し、訪問介護も検討する |
| 家族が毎回入浴させる | 通所介護、訪問入浴、短期入所などを比較する |
| 外出にすべて付き添う | 送迎サービスや介護タクシーなど地域の移動手段を調べる |
| 一人で夜間対応する | ショートステイ、定期巡回、緊急通報などを相談する |
| 本人の希望をすべてかなえる | 安全、家族の限界、費用を説明し、代替案を一緒に探す |
利用できるサービスは要介護度、地域、事業所の空き状況などで異なります。表の方法がそのまま使えるとは限らないため、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談してください。
介護を4段階に分けて優先順位を決める
- 今すぐ対応:急変、重大な事故、暴力、行方不明など
- 今週中に相談:転倒の増加、服薬ミス、食事量の低下、介護者の睡眠不足
- 今月見直す:サービス量、家事分担、介護費、仕事との両立
- 様子を見てよい:安全や健康へ直ちに影響しない小さな生活習慣の違い
すべてを同じ緊急度で扱うと、介護者の頭の中が常にいっぱいになります。紙に書き出し、今すぐ対応するものを一つに絞るだけでも整理しやすくなります。
家族内の役割は「手伝える人」ではなく「仕事」で分ける
「できる人が手伝う」という決め方では、近くに住む家族や連絡を受けた人へ負担が集中しがちです。介護を具体的な仕事へ分けて担当を決めます。
- 通院の予約と付き添い
- 介護サービス事業所との連絡
- 薬の受け取り
- 日用品の購入
- 請求書や介護費の記録
- 遠方の家族への状況共有
- 主な介護者が休む日の対応
遠方の家族でも、電話連絡、インターネットでの購入、費用負担、書類整理などを担当できる場合があります。役割と頻度を言葉にし、「誰かがやるだろう」を減らします。
相談するときは困りごとを具体的に伝える
「もう大変です」だけでも相談はできますが、次のように具体的な事実を添えると、必要な支援を検討しやすくなります。
相談時の伝え方の例
「夜中に3回起きる日が続き、私は2週間ほとんど眠れていません。今のサービスでは在宅介護を続けられないため、夜間対応やショートステイを含めて見直したいです」
日時、回数、本人の様子、介護者への影響をメモしておくと伝わりやすくなります。サービスを増やすことだけでなく、福祉用具、住環境、医療との連携なども相談できます。
介護サービスは家族が休むためにも使える
介護者が一時的に休息することをレスパイトと呼びます。通所サービスやショートステイなどは、本人への支援とともに、家族が休む時間を作る役割もあります。
「自分が休むためにサービスを使うのは申し訳ない」と感じる方もいますが、休息は在宅介護を続けるための準備です。限界になってからでは、希望する日程や事業所を選べない場合があります。早めに試し、本人との相性も確認しておきましょう。
仕事を辞める前に確認すること
介護のため退職すると、収入だけでなく社会とのつながりや将来の年金にも影響します。一度辞めると同じ条件で再就職できるとは限りません。退職を決める前に、勤務先の介護休業・介護休暇、短時間勤務などの制度、人事担当者への相談、介護サービスの見直しを確認します。
制度の対象や利用条件は働き方によって異なります。勤務先と厚生労働省の最新情報を確認してください。
介護者の限界を示すサイン
- 眠れない、食べられない状態が続く
- 動悸、頭痛、腹痛など体調不良が続く
- 何をしても楽しいと感じられない
- 本人へ怒鳴る、たたきそうになる
- 介護者が自分を傷つけたい、消えたいと感じる
- 介護費で家計が維持できない
- 仕事の欠勤が増え、雇用継続が難しくなっている
これらは「もっと頑張る合図」ではありません。主治医、ケアマネジャー、地域包括支援センター、勤務先などへ早めに相談する合図です。本人や家族に危険が迫っている場合は、安全な場所へ離れ、緊急窓口を利用してください。
社会福祉士の視点:小さな困りごとのうちに共有する
介護者は「まだ自分でできる」「他の家族より大変ではない」と相談を先延ばしにしがちです。しかし、転倒が増えた、入浴介助が難しい、夜眠れないといった小さな変化を早く共有すると、選べる支援が増えます。
相談では、家族を責めるのではなく、現在の介護が続けられる形かを一緒に確認します。サービスの利用回数、本人の状態、家族の仕事や健康、費用をまとめて見直すことが大切です。
1週間の見直しチェック
- 本人に重大な事故や急変の兆候はなかったか
- 本人が強く嫌がった介助と、その理由は何か
- 介護者は必要な睡眠と通院時間を確保できたか
- 家族一人へ負担が集中していないか
- 使っているサービスで足りない時間帯はないか
- 来週、誰かへ頼むことを一つ決めたか
できなかった項目があっても、自分を責めるためのチェックではありません。支援を増やす場所を見つけるために使います。
よくある質問
本人がサービスを嫌がる場合はどうしますか?
嫌がる理由を確認し、見学、短時間利用、担当者の変更などを検討します。本人へ一方的に決定を伝えるのではなく、何に困っているか、どのような生活を続けたいかを共有します。ケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談してください。
兄弟姉妹が協力してくれません
感情だけで話すと対立しやすいため、現在の介護内容、時間、費用を一覧にし、具体的な役割を提示します。それでも協力が難しい場合は、家族の協力を前提にせず、公的・民間サービスを含めて介護計画を見直します。
どこへ最初に相談すればよいですか?
ケアマネジャーがいる場合は担当者へ、いない場合や介護保険の利用前は地域包括支援センターへ相談できます。医療上の変化は主治医へ、仕事との両立は勤務先の人事・労務担当へも相談します。
まとめ:守る項目を絞り、介護を家族だけの仕事にしない
家族介護の「70点」は、本人を雑に扱うことではありません。安全、尊厳、介護者の健康は守り、それ以外はサービスや周囲へ任せ、続けられる形に整える考え方です。
- すべてを同じ緊急度で扱わない
- 家族内の役割を具体的な仕事へ分ける
- 困りごとは回数と影響を添えて相談する
- 介護者の休息を予定に入れる
- 退職や限界の前にケアプランと働き方を見直す
公的情報・関連記事
本記事は家族介護に関する一般的な情報です。本人の急変、事故、虐待や暴力の危険がある場合は、通常の相談を待たず、医療・警察など適切な緊急窓口へ連絡してください。利用できる制度やサービスは地域や個人の状況によって異なります。


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