認知症などで判断する力が低下すると、預金の解約、不動産の売却、遺産分割、施設入所などの手続きを本人だけで進めることが難しくなる場合があります。しかし、認知症の診断があるだけで、本人がすべての契約をできなくなるわけではありません。必要な支援は、本人の判断能力と、実際に行う法律行為ごとに考えます。
私は地域包括支援センターで10年以上勤務する社会福祉士として、成年後見制度を検討する本人・家族の相談に関わってきました。この記事では、現行制度の仕組み、法定後見と任意後見の違い、申立て、費用、後見人等にできないこと、ほかの支援との違いを、2026年7月18日時点の公的情報に基づいて解説します。
成年後見制度は、家族が本人のお金を自由に動かすための制度ではありません。家庭裁判所が関与し、本人の権利と財産を守るために、必要な法律上の支援を行う制度です。
2026年の改正について
2026年6月24日に成年後見制度の改正法が公布されましたが、成年後見部分はまだ施行されていません。2026年7月18日現在は、後見・保佐・補助の現行3類型が適用されます。改正後は後見・保佐を廃止して補助制度を中心とする仕組みに変わる予定で、施行日は公布から2年6か月以内に政令で定められます。
- この記事でわかること
- まず確認|認知症の診断だけで成年後見が決まるわけではない
- 成年後見制度とは?法定後見と任意後見の2つがある
- 現行の法定後見3類型|後見・保佐・補助の違い
- 成年後見を具体的に検討することが多い場面
- 後見人等にできること・できないこと
- 法定後見の申立てができる人と申立先
- 申立ての流れと必要書類
- 申立て時と開始後にかかる費用
- 家族を候補者にしても、必ず選任されるわけではない
- 現行制度は目的が終わっても自由にやめられない
- 成年後見以外に検討できる支援
- 申立て前の10項目チェックリスト
- 2026年改正で何が変わる予定か
- 相談先の使い分け
- よくある質問
- まとめ|制度名より「必要な支援の範囲」を先に整理する
- 参考にした公的情報
この記事でわかること
- 成年後見制度を検討する場面と、制度を使う前の確認事項
- 法定後見3類型と任意後見の違い
- 後見人等にできること・できないこと
- 申立てできる人、必要書類、費用、期間
- 候補者の選任、報酬、制度が続く期間
- 日常生活自立支援事業など、ほかの支援との違い
まず確認|認知症の診断だけで成年後見が決まるわけではない
判断能力は、診断名だけではなく、本人が契約の内容や結果をどの程度理解できるかによって判断されます。認知症があっても、自分で理解して決められることまで家族が取り上げるべきではありません。
成年後見制度を検討する前に、次の順番で困りごとを整理します。
- 何ができずに困っているのか
日常の支払い、不動産売却、遺産分割、施設契約など、必要な行為を具体的にします。 - 本人は何を理解し、何を希望しているか
落ち着ける場所で、分かりやすい言葉や資料を使って確認します。 - どこまでの権限が必要か
一部の手続だけでよいのか、継続的な財産管理が必要なのかを分けます。 - より限定的な支援で対応できないか
日常生活自立支援事業、金融機関の代理手続なども確認します。
本人の希望と家族の事情を分けて整理する方法は、お金を使って後悔しないための7つの判断基準|費用・時間・負担を比べる方法の巻でも解説しています。
成年後見制度とは?法定後見と任意後見の2つがある
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などにより物事を判断する能力が十分でない人を、法律面から支援する制度です。大きく分けて、判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立てる法定後見と、判断能力が十分なうちに将来へ備えて契約する任意後見があります。
| 比較項目 | 法定後見 | 任意後見 |
|---|---|---|
| 検討する時期 | 判断能力が不十分になった後 | 判断能力が十分なうち |
| 支援する人 | 家庭裁判所が選任 | 本人が公正証書の契約で決める |
| 現行制度の種類 | 後見・保佐・補助 | 任意後見 |
| 始まる時点 | 家庭裁判所の審判が確定したとき | 判断能力低下後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したとき |
| 支援の範囲 | 法律と家庭裁判所の審判で決まる | 公正証書の契約で定めた代理権の範囲 |
| 監督 | 家庭裁判所。必要に応じて監督人 | 任意後見監督人が監督し、家庭裁判所へ報告 |
任意後見契約は、公正証書を作った時点で直ちに任意後見人の権限が始まるわけではありません。本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力が生じます。
現行の法定後見3類型|後見・保佐・補助の違い
| 類型 | 対象となる判断能力 | 主な権限 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力を欠くのが通常の状態 | 財産に関する法律行為を広く代理。本人が行った日常生活に関する行為以外の法律行為を取り消せる |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 借金、保証、不動産取引、相続など法律で定めた重要行為への同意・取消し。代理権は家庭裁判所が定めた行為に限る |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 申立ての範囲で家庭裁判所が定めた特定行為について、同意・取消しまたは代理を行う |
補助では、必要な同意権または代理権の付与を同時に申し立てます。本人以外が補助開始を申し立てる場合は本人の同意が必要です。保佐人へ代理権を付与する場合も、本人以外の申立てでは本人の同意が必要です。
裁判所|成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要
法務省|法定後見制度Q&A
成年後見を具体的に検討することが多い場面
- 本人名義の不動産を売却する必要がある
- 遺産分割や相続手続きを本人だけでは進められない
- 施設入所や介護サービスの契約を理解して行うことが難しい
- 不利益な契約や詐欺被害を繰り返している
- 預貯金や年金を継続的に管理する必要がある
- 財産管理や法律手続きを支援できる親族がいない
- 本人が日常生活自立支援事業の契約内容を理解することも難しい
一方、日常の支払いを一部手伝えば生活でき、本人が支援契約の内容を理解できる場合は、より限定的な支援から検討できることがあります。「成年後見を使えるか」だけでなく、「成年後見が今の困りごとに必要か」を確認しましょう。
後見人等にできること・できないこと
| できることの例 | 原則として職務ではない・代理できないこと |
|---|---|
| 預貯金や収支の管理 | 食事、掃除、買い物、通院介助、身体介護を後見人自身が行うこと |
| 介護・福祉サービスや施設入所の契約・費用支払い | 手術などの医療行為への同意 |
| 必要な医療・介護を受けるための契約や手配 | 後見人という立場で身元保証人・連帯保証人になること |
| 権限の範囲内で不利益な契約を取り消すこと | 婚姻、離婚、養子縁組、離縁、遺言など本人の意思が特に重視される行為 |
| 家庭裁判所へ定期報告し、本人の利益のために財産を使うこと | 本人の財産を後見人や家族のために自由に使うこと |
「身上保護」とは、後見人等が自ら介護をする意味ではありません。本人の生活・医療・介護に目を配り、必要なサービスの契約や手配、費用の支払いを行うことです。また、診療契約や医療費の支払いと、手術等への医療同意は別です。
本人の居住用不動産を処分するには家庭裁判所の許可が必要
本人が住む家や、現在は住んでいなくても将来戻る可能性がある家について、売却、賃貸借の締結・解除、抵当権設定、建物の取壊しなどをする場合は、事前に家庭裁判所の許可が必要です。無許可で行った処分は無効になります。
本人と後見人等の利益がぶつかる場合は別の手続が必要
本人と後見人等が共同相続人になる遺産分割など、利益が対立する行為では、後見人等がそのまま本人を代理できません。特別代理人、臨時保佐人、臨時補助人等の選任が必要になる場合があります。
法定後見の申立てができる人と申立先
申立てができる主な人は、本人、配偶者、4親等以内の親族、法定後見人等、検察官などです。福祉上必要で、親族がいない・協力が得られない場合などには、市区町村長が申し立てることもあります。
申立先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。家族の住所地ではありません。管轄や地域独自の書類は、申立先の家庭裁判所で確認します。
申立ての流れと必要書類
- 相談して必要性を整理する
本人の希望、必要な法律行為、ほかの支援で対応できる範囲を確認します。 - 医師の診断書と本人情報シートを準備する
福祉関係者等が本人情報シートを作成し、医師が診断書を作る際の参考にする場合があります。 - 財産・収支・親族関係の資料を集める
預貯金、不動産、保険、年金、負債、毎月の支出などを整理します。 - 本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てる
申立書と添付書類、手数料等を提出します。 - 家庭裁判所の調査・面談・必要に応じた鑑定
本人、申立人、候補者、親族の意向などが確認されます。 - 類型と後見人等を家庭裁判所が決める
審判が確定すると、法定後見が始まります。
主な書類には、申立書、申立事情説明書、親族関係図、親族の意見書、候補者事情説明書、財産目録、収支予定表、戸籍謄本、住民票等、診断書、本人情報シート、後見登記されていないことの証明書などがあります。裁判所や事案によって追加書類があるため、最新の書式を使ってください。
裁判所の案内では、申立てから審判まではおおむね1~2か月程度が目安とされています。鑑定を行う場合や、資料・親族調整に時間を要する場合はさらに長くなります。
申立て時と開始後にかかる費用
| 費用 | 2026年7月時点の考え方 |
|---|---|
| 申立手数料 | 基本800円。保佐・補助で代理権や同意権の付与を求める場合は申立てごとに追加手数料が必要 |
| 登記手数料 | 2,600円 |
| 郵便料 | 家庭裁判所・申立内容により異なる |
| 書類取得・診断書 | 戸籍、住民票、登記事項証明書、診断書などの実費 |
| 鑑定費用 | 家庭裁判所が鑑定を必要と判断した場合に別途必要 |
| 後見人等・監督人の報酬 | 申立てにより家庭裁判所が金額を決定し、本人の財産から支払う |
専門職の報酬を「全国一律で月額いくら」とは言えません。家庭裁判所が、事務の内容や本人の財産状況などを考慮して決めます。後見人等が家庭裁判所の決定前に、本人の財産から勝手に報酬を受け取ることはできません。
家族を候補者にしても、必ず選任されるわけではない
申立書には候補者を書けますが、誰を後見人等にするかは家庭裁判所が決めます。本人の心身、生活、財産、必要な事務、候補者との関係、親族の意見などを踏まえ、親族ではなく弁護士、司法書士、社会福祉士、法人などの専門職が選ばれる場合があります。複数の後見人等や監督人が選任されることもあります。
希望した候補者が選任されなかったという理由だけでは不服申立てができません。候補者が専門職になる可能性と、本人財産から報酬が支払われる可能性を、申立て前に家族で確認しましょう。
現行制度は目的が終わっても自由にやめられない
預金解約、不動産売却、遺産分割など、申立てのきっかけになった手続が終わっても、現行の法定後見は自動的に終了しません。
原則として、本人が判断能力を回復して家庭裁判所が開始審判を取り消すか、本人が亡くなるまで続きます。本人や家族の希望だけでやめることはできません。申立書を提出した後の取下げにも家庭裁判所の許可が必要です。後見人等の辞任にも正当な理由と家庭裁判所の許可が必要で、担当者が辞任しても制度そのものが終わるとは限りません。
成年後見以外に検討できる支援
| 支援 | 主な内容 | 限界・確認点 |
|---|---|---|
| 日常生活自立支援事業 | 福祉サービス利用援助、日常的な金銭管理、書類預かりなど | 本人が契約内容を理解できることが必要。不動産売却や遺産分割を包括的に代理する制度ではない |
| 金融機関の代理人制度・代理人カード等 | 金融機関が定める範囲の預金手続 | 金融機関ごとに条件が異なる。施設契約や契約取消しまで行える制度ではない |
| 任意後見 | 判断能力が十分なうちに、将来の支援者と代理権の範囲を公正証書で決める | 判断能力低下後、任意後見監督人が選任されるまで効力は始まらない |
| 家族信託等 | 信託した財産を契約に沿って受託者が管理 | 信託していない財産や、介護・施設契約まで自動的に代理できるわけではない。法律・税務の個別確認が必要 |
これらは成年後見制度の完全な代わりではなく、本人の判断能力、必要な行為、財産の範囲によって使い分けます。日常生活自立支援事業は、市区町村の社会福祉協議会へ相談します。
申立て前の10項目チェックリスト
- 成年後見が必要な具体的な法律行為を整理した
- 本人の理解と希望を確認した
- 医師や福祉関係者から本人の状態を聞いた
- 必要な代理権・同意権・取消権の範囲を整理した
- 日常生活自立支援事業など限定的な支援を検討した
- 本人の財産、収入、支出、負債を把握した
- 希望した候補者が必ず選ばれるわけではないと理解した
- 報酬が本人の財産から支払われる可能性を確認した
- 財産管理と家庭裁判所への報告が継続することを理解した
- 申立て後の取下げと制度の終了が自由ではないと確認した
2026年改正で何が変わる予定か
2026年6月17日に改正法が成立し、6月24日に公布されました。ただし、成年後見制度に関する改正は2026年7月18日時点で未施行です。
- 後見・保佐を廃止し、補助制度へ一元化する
- 本人に必要な範囲の権限を設定する仕組みにする
- 必要性がなくなったときに審判を取り消せる規定を設ける
- 特定の事務を担う「特定補助人」の仕組みを導入する
施行日は、公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令により定められます。すでに利用中の後見・保佐が施行日に一律終了するわけではなく、経過措置により基本的に現行内容で継続できるとされています。
相談先の使い分け
| 相談内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 高齢者の生活、介護、権利擁護をまとめて相談したい | 本人の住所を担当する地域包括支援センター |
| 地域の成年後見支援や制度の適否を相談したい | 市区町村の中核機関、権利擁護センター |
| 日常生活自立支援事業を利用したい | 市区町村の社会福祉協議会 |
| 申立書類、管轄、裁判手続を確認したい | 本人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
| 法的判断、家族間の争い、複雑な財産を相談したい | 弁護士、司法書士、法テラス等 |
地域包括支援センターの役割と相談方法は、地域包括支援センターは何を相談できる?社会福祉士が役割と相談方法を解説の巻をご覧ください。
よくある質問
子どもなら親の預金を自由に引き出せますか?
家族であることだけで、本人名義の預金を自由に管理する権限が生じるわけではありません。金融機関の手続や本人の判断能力によって対応が異なるため、本人が元気なうちに代理人制度等を確認し、判断能力低下後は金融機関や地域の相談窓口へ相談してください。
申立人が希望した家族は後見人になれますか?
候補者として記載できますが、必ず選任されるわけではありません。誰を選ぶかは家庭裁判所が本人の利益を考えて決めます。
後見人は入院・施設の身元保証人になりますか?
後見人という立場だけで、身元保証人や連帯保証人になる義務はありません。契約の代理や費用支払い、必要な支援の調整と、保証債務を負うことは別です。
後見人は手術へ同意できますか?
成年後見人等に、手術などの医療行為へ同意する一般的な権限はありません。診療契約や医療費の支払いと、医療行為そのものへの同意を分けて考えます。具体的な場面は医療機関、家族、支援者、法律専門職等で確認してください。
2026年から後見・保佐はなくなったのですか?
まだなくなっていません。改正法は公布されましたが、成年後見部分は未施行です。施行日までは現行の後見・保佐・補助が適用されます。
まとめ|制度名より「必要な支援の範囲」を先に整理する
成年後見制度は、判断能力が不十分な人の権利と財産を守る重要な制度です。一方で、希望した家族が必ず選ばれるわけではなく、後見人等の報酬、家庭裁判所への継続報告、現行制度では自由に終了できないことなど、申立て前に理解したい点があります。
- 認知症の診断だけで、本人の意思決定をすべて代わらない
- 必要な法律行為と権限の範囲を具体的にする
- より限定的な支援で対応できないか確認する
- 候補者、費用、報酬、継続期間を理解してから申し立てる
- 地域包括支援センターや中核機関、家庭裁判所、専門職へ早めに相談する
成年後見制度を使うこと自体が目的ではありません。本人が望む生活を守るために、必要な権限だけを、適切な制度と支援者へつなぐことが目的です。
参考にした公的情報
本記事は2026年7月18日時点の一般的な制度情報です。個別の事情によって適切な制度、権限、申立書類、法的判断は異なります。具体的な申立てや契約は、地域の相談窓口、本人の住所地を管轄する家庭裁判所、弁護士・司法書士などへ確認してください。


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