「介護が始まったら、毎月いくら必要なのだろう」「年金と貯蓄だけで足りるだろうか」。親の変化を感じたとき、お金の心配が急に現実味を帯びることがあります。
ただ、介護にかかる金額は、要介護度、住まい、家族が担える範囲、利用するサービスなどで大きく変わります。平均額を見て慌てるのではなく、「最初にかかるお金」「毎月かかるお金」「見落としやすいお金」に分けて考えることが大切です。
今回は、地域包括支援センターで相談支援に携わった経験から、介護費用の見通しを立てる順番を、できるだけわかりやすくお伝えします。
介護費用の平均は「答え」ではなく「目安」
生命保険文化センターの2024年度調査では、介護のために一時的にかかった費用は平均47.2万円、月々の費用は平均9.0万円でした。月額を介護場所別に見ると、在宅は平均5.3万円、施設は平均13.8万円です。
介護期間は平均55カ月(4年7カ月)で、4年を超えた人は約4割でした。「思っていたより長く続くことがある」という点は、資金計画に入れておきたいところです。
ただし、これは過去3年間に介護経験がある人への調査による平均値です。すべての家庭に同じ金額・期間が当てはまるわけではありません。たとえば「47.2万円+9万円×55カ月」と単純計算すると約542万円になりますが、別々の平均値を掛け合わせた参考値にすぎず、あなたの家庭の必要額を示すものではありません。
大切なのは、平均と比べて一喜一憂することではなく、わが家の条件に置き換えて確認することです。
介護のお金は3つに分けると見えやすい
1.最初にまとまってかかる費用
- 手すりの設置、段差解消などの住宅改修
- 介護ベッド、車いす、入浴用品などの福祉用具
- 施設入居時の一時金、引っ越し、家財整理
住宅改修や福祉用具は、介護保険の給付対象になるものがあります。先に購入・工事をすると対象外になる場合もあるため、契約する前にケアマネジャーや市区町村へ相談しましょう。
2.毎月続く費用
- 訪問介護、デイサービス、ショートステイなどの自己負担
- 施設の居住費・食費・日常生活費
- 通院費、薬代、おむつ代、配食代
在宅は施設より平均月額が低い一方、家族の時間や交通費、仕事を休む影響が表面に出にくいことがあります。施設は月額が高くなりやすいものの、見守りや食事、介護をまとめて受けられる安心があります。「どちらが安いか」だけでなく、本人の希望、安全、家族が無理なく続けられるかを一緒に考えましょう。
3.見落としやすい費用
- 遠距離介護の交通費や宿泊費
- 家族の休職・時短勤務による収入減
- 家賃、固定資産税、保険料など、介護前から続く生活費
- 急な入院、退院後の環境整備、介護度が変わったときの追加費用
家族が無償で担っている時間も、負担がないわけではありません。介護離職を前提にせず、まず職場の介護休業・介護休暇や両立支援制度を確認してください。
遠距離介護では、交通費だけでなく、訪問回数、急な呼び出し、宿泊、きょうだい間の負担の偏りまで確認します。家族の勤務先に利用できる制度があるか、雇用保険の要件を満たせば介護休業給付の対象になる可能性があるかも、退職を決める前に勤務先やハローワークへ確認しましょう。収入減と移動費を記録しておくと、家族で役割や負担を見直す材料になります。
月額費用は「介護サービス以外」も一緒に書き出す
予算をつくるときは、請求書をまとめて考えず、次の項目を1カ月分ずつ書き出します。介護が始まる前は、現在の生活費を土台にして、見積書やケアプランの案から仮の金額を入れれば十分です。
- 本人の生活費:家賃・住宅費、光熱費、通信費、食費、保険料
- 介護保険サービス:利用票や見積書にある自己負担額
- 保険給付外の費用:食費、居住費、日用品、配食、追加サービス
- 医療に関する費用:通院、薬、訪問診療、入院時の支出
- 家族側の費用:交通・宿泊、立て替え、仕事を休むことによる収入への影響
ここから本人の年金などの収入を差し引くと、毎月どの程度を預貯金などで補うのかが見えてきます。家族が立て替えた分は、日付・目的・金額を記録し、本人のお金と家族のお金を混ぜないようにします。金額が確定していない項目は「0円」とせず「未確認」と残すほうが、見落としを防げます。
月に1度、支払い記録をそろえる
月に1度、通帳、カード明細、施設や事業者の請求書、家族の立替記録を同じ月でそろえます。表は「日付」「支払先」「内容」「本人負担」「家族立替」「精算日」の欄があれば十分です。領収書に番号を振って表と対応させると、後から見直しやすくなります。
- 本人の口座から支払うものと、家族が立て替えてよいもの
- 立替分を精算する日と、記録を確認する家族
- 高額な支出を決める前に相談する相手と連絡方法
この3点を家族で決めておくと、「誰が何を払ったか」が曖昧になりにくくなります。現金を手渡しした場合も記録を残し、家族の立替金を本人への贈与と混同しないよう、定期的に精算しましょう。
介護保険を使っても「全部1〜3割」ではない
介護保険サービスの自己負担は原則1割で、一定以上の所得がある人は2割または3割です。ただし、在宅の介護サービスには要介護度ごとの支給限度額があります。限度額の範囲内なら1〜3割負担ですが、超えて利用した分は原則として全額自己負担です。
また、施設の居住費・食費・日常生活費、保険給付外のサービスなどは別に必要です。「自己負担1割だから、すべて1割で済む」とは限りません。
一方で、負担を抑える仕組みもあります。1カ月の介護サービス自己負担が所得区分ごとの上限を超えた場合に支給される高額介護サービス費、医療費と介護費を合算する制度、所得・資産などの条件を満たす施設利用者の食費・居住費を軽減する制度などです。対象や申請方法は世帯状況で変わるため、市区町村の介護保険担当窓口に確認しましょう。
資金計画は3段階でつくる
第1段階:本人のお金を確認する
年金などの月収、預貯金、保険、不動産、毎月の生活費を一覧にします。基本は本人の収入・資産を本人のために使うこと。通帳や保険証券の保管場所、支払い方法も、本人が話せるうちに確認しておくと安心です。
第2段階:3つの見通しをつくる
「今の状態が続く場合」「サービスが増える場合」「施設を検討する場合」の3通りで、初期費用と月額を仮置きします。施設はパンフレットの表示額だけでなく、食費、日用品、医療費、加算、退去条件まで確認します。半年ごと、または介護度や住まいが変わるたびに見直せば十分です。
各案は、「初期費用」「通常月の支出」「一時的な追加支出」「本人の月収」「預貯金から補う額」を同じ書式で並べると比べやすくなります。平均月額に平均期間を掛けた総額だけを目標にすると、状態が軽い時期とサービスが増える時期の差や、入院・住宅改修などの一時費用が見えません。まず半年〜1年程度の資金繰りを具体化し、その先は複数の案として持つほうが、実際の変化に対応しやすくなります。
第3段階:制度と家族の限界を先に確認する
ケアマネジャーに「月いくらまでなら続けられる」と率直に伝え、利用できる軽減制度も含めて組み立ててもらいます。家族がお金や介護を支える場合は、金額・期間・役割の上限を曖昧にしないことが、長く続けるための大切な備えです。
計画を見直す合図を決めておく
介護の計画は、一度つくって終わりではありません。次のような変化があったら、サービス内容と家計をセットで見直します。
- 転倒や入退院が増え、見守りや通院の回数が変わった
- 要介護度、自己負担割合、ケアプランが変わった
- 家族の仕事・健康・居住地が変わり、これまでの支援を続けにくくなった
- 毎月の赤字や家族の立て替えが、想定より続いている
- 在宅生活への不安が強まり、施設や住み替えを検討し始めた
「お金が足りなくなってから」ではなく、変化の合図が出た時点でケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談するのがポイントです。費用を抑えるために必要なサービスを自己判断でやめる前に、回数や組み合わせ、軽減制度を見直せないか確認してください。
家族会議で確認したいチェックリスト
- 本人はどこで、どのように暮らしたいか
- 年金・預貯金・保険と、毎月の固定費はいくらか
- 通帳、印鑑、保険証券、重要書類はどこにあるか
- 家族それぞれができること、できないことは何か
- 月々の予算上限と、緊急時に使えるお金はいくらか
- 連絡役、医療・介護の窓口、支払い管理を誰が担うか
- 判断能力が低下した場合の財産管理をどうするか
一度ですべて決める必要はありません。まずは本人の希望と、お金の全体像を共有するところから始めましょう。家族だけで話がまとまらないときは、第三者に入ってもらう方法もあります。
困ったときの相談先
- 地域包括支援センター:介護が必要か迷う段階から相談できます
- 担当ケアマネジャー:サービス内容と予算の調整を相談できます
- 市区町村の介護保険担当窓口:自己負担割合、軽減制度、申請方法を確認できます
- 社会福祉協議会や成年後見の相談窓口:生活費や財産管理の困りごとを相談できます
相談時には「要介護度」「負担割合証」「最近のサービス利用票」「年金などの収入」「預貯金のおおよその額」「毎月出せる上限」をメモしておくと、話が進みやすくなります。
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費用の見通しができたら、家族での整理方法、住まいの選択肢、預貯金と投資の優先順位もあわせて確認しておくと、次の行動を決めやすくなります。
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まとめ|金額より先に、続けられる形を考えよう
介護費用は、初期費用だけでなく、月々の支出が数年続く可能性があります。一方で、平均額がそのまま各家庭の請求額になるわけでもありません。
本人のお金を確認する。複数の見通しをつくる。制度と家族の限界を確認する。この3段階で整理すると、漠然とした不安が「次に確認すること」へ変わります。介護は家族だけで抱えるものではありません。費用が心配なときほど、サービスを減らす前に、地域包括支援センターやケアマネジャー、市区町村へ相談してください。
参考情報
※制度の内容や負担額は改正されることがあります。実際に利用するときは、お住まいの市区町村や担当窓口で最新情報をご確認ください。

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